01979_英文契約書のドラフトを受け取ったら

英文契約を受け取ったら、英文契約書の言語的意味や内容や意義の解釈のプロセスを経由してから、署名します。

1 文書の言語は完全に理解しているか?
2 文書の言葉が理解できるとして、内容や意義は理解しているか?

これらについて、不安や疑義があり、積極的な確認ができていないようであれば、まずは、この点の確認、すなわち、“状況の認知と解釈”を先行すべきです。

3 翻訳と意味を把握する

ここまでは、
「署名の是非を問う“前”の環境整備」
となります。

4 署名をすることのメリット・デメリットの検証分析をする

論理的選択肢としては、
・署名する
・署名しない
・署名を放置する
・署名はするが、一定の限定ないし留保を付す
という態度オプションが抽出されます。

5 リーガルマターを確認

・文書に署名した場合、○○の援用という解釈を招きかねず、デメリットを生じる
・(デメリットを上回る)メリットがある場合や、署名をしない場合にリスクを招来する場合等が判明するなら、これは、選択課題、すなわち“経営判断課題”です。

6 経営判断課題である場合

経営判断課題を処理するにあたっては、全ての選択肢を抽出し、これにプロコン分析を加え、責任者に判断・選択を仰ぐ、というのが合理的なビジネスフローとなります。

以上を踏まえて、(弁護士に)質問や支援要請の意図や範囲を明確にした上での“選択課題”であるにもかかわらず、
「自分でもよく理解していない、普段使っていない言語により作成された文書への署名を求められていますが、署名してもしていいですか」
と、(まるでルーティン課題の確認が如く)質問される方がいらっしゃいます。

弁護士として判断できないことはさることながら、上長・責任者としても、判断材料がないため判断しようがなく、困惑するほか、ありません。

ご参考までに、
00585_英文契約書のドラフトを受け取った場合の認知・解釈課題の対処手順
を記しておきます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01978_刑事事件における供託金の取り戻しについて

弁済供託制度は、
「支払いたいが、相手が受け取ってくれない」
という課題解決のための制度であり、
「供託を以て、支払い完了」
というフィクションを、供託者の便宜で実施するものです。

我々弁護士が供託手続きを受任するにあたっては、
「供託した場合、取戻しはしない前提とする」
という事前確認をクライアントに行います。

無論、制度としては、取戻し手続という仕組みは存在しますし、もし、相手方が供託払戻を受けていなければ、理論上は可能です。

しかし、たとえば刑事事件において、示談金という性質で供託手続きを行う場合、示談事実が情状の一要素として考慮される等の事情のあるなか、
“判決前に供託を行い、判決後に供託を取戻す”
という行為は、
「裁判で情状を芳しくするためのポーズとして供託したが、判決をもらったら、用は済んだので、取り戻す」
ということと同義と捉えられかねず、大きな問題をはらみます。

特に、我々弁護士は、弁護士職務基本規程という倫理を遵守する立場にあるため、このような行為に加担した場合、我々自身の行為が非難されかねません。

まとめると、供託においては、取戻しという制度自体は存在するし、もし、払戻がなされていなければ理論上は可能ではあるが、
1 以上のような刑事司法手続の公正を脅かす反倫理性、
2 これを予知して受任に際して取戻しを前提としないことをクライアントに確認する、
という点から、弁護士は、“供託金の取戻し”には協力はできない、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01977_“パワハラ”事案を知ったときの会社対応

全体・概括として、
・パワハラ罪やパワハラ禁止法というものは、法律的に明確な定義は存在しません。
・“パワハラ”というものは、不定形で抽象的なものであり、被害者側が、5W1Hを含め、具体的な事実関係と違法性を主張として、固めるまでは、(言い方は不適切かもしれませんが) 会社側としては腕組みして待っていれば足りる話です。
・そして、この具体的主張を行うのは、多大な時間と労力がかかります。すなわち、過去の事実を、想起、見える化、カタチ化、文書化をしていく責任は、被害者側に帰せられる、という前提があります。

会社の対応としては、被害者側に、
「パワハラ、パワハラ」
と叫ぶだけではなく、
「具体的事実関係」
「それが、どのように違法性があると考えられ」
「それによって、具体的にどのような損害が発生したのか」
を明確に文書で主張してもらい、当該事実関係の有無をカウンターパートにも確認し、その上で、会社としての対処を決める、という流れになります。

それまでは、労使関係が存続します。

被害者側が勝手に職場放棄すれば、懲戒の問題が発生します。

情緒的な反応に情緒的にビビるのではなく、そういうシンプルでソリッドな骨格理解の下、淡々と対応するのが吉です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01976_弁護士を変えて控訴する場合の注意点_控訴期間

民事の訴訟事件において、地方裁判所で棄却の判決がくだされると、
「控訴するか」
「控訴しないか」
という選択段階に入りますが、
「控訴する」
「控訴しない」
は、単純に、手続き上の課題ではありません。

裁判は、緻密で複雑な外交戦です。

・ゲーム環境
・ゲームロジック
・ゲームの展開推移予測
・現実的期待値
・課題の克服可能性
これらを踏まえた、“利得判断”と“資源動員決定(クライアントの資源動員だけでなく、弁護士の資源動員の是非も議論になり得る)”をする必要があります。

ですから、通常、弁護士はクライアントに対し、訴訟を起こす前に、判決後の予測(あくまでも予測であり、絶対ではありません)も含めて、 判断の前提たる選択肢を抽出整理し、クライアントに上程するのです(01975参照)。

弁護士が“選択肢を抽出整理”するにも、クライアントが“利得判断”と“資源動員決定” をするにも、“時間的冗長性”を確保することが先決であることはいうまでもありません。

判決がくだされると、弁護士がすぐさまクライアントに対して、事件報告とともに明確な期限を案内するのは、この双方の“時間的冗長性” 確保のためです。

ところで、
「代理人が、控訴についてあまり強気でないから」
というような理由で、弁護士を変更してでも控訴をしたいと法律相談にくるオーナー経営者が、たまにいます。

「控訴する」
「控訴しない」
という根源的課題を、
・利得判断からするのか
・控訴ありきでの遂行課題とするのか
の議論において、(相談者が)新しい代理人に求めるレベル感の確認の必要性は大きいですが、それよりも何よりも、控訴期間が経過してしまったら、議論自体が無益となります。

要するに、
「控訴期間が切迫しているか否か」
は、法律相談以前の問題です。

さて、最近の裁判実務運用を前提とすると、裁判所は和解を強力に勧奨するのが通常です(裁判でもそのような場面があったはずです) 。

地方裁判所の和解勧奨を蹴って、棄却の判決を受け、
「控訴する」
としても、 高等裁判所では、そもそも外交舞台の構築ができることを前提に、より外交戦の比重が大きくなります。

検証するポイントとしては、
・(弁護士が)強気かどうか、ではなく、
・(控訴の)“理由”と、“証拠”があるかないか、
さらに言えば、
・(こちらとしての思いではなく)裁判所の感受性に響く理由や証拠の有無、
ですが、控訴期間の大半がすでに経過している状況であるならば、前触れなく相談を振られた弁護士としては、
「控訴期間遵守にまつわる責任一切は、負いかねる」
という厳格な前提で、法律相談を受けることになります。

なぜなら、
「控訴期間徒過」
という事態は、弁護士の倫理としては、絶対やってはならないし、加担することはもちろんのこと、曖昧な態度で関わったり、触れたりすることも忌避されるべき事柄だからです。

このような次第で、“時間的冗長性”の確保がネックで、
「控訴しない」
と判断せざるを得ない相談者(オーナー経営者)が少なくないのが事実です。

裁判は、単純に
「勝った」
「負けた」
というシンプルなデジタル処理課題ではなく、前述のように“緻密で複雑な外交戦”です。

だからこそ、 “時間的冗長性”の 確保を軽く考えてはならないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01975_クライアントと弁護士の関係

弁護士と、クライアントとの関係は、民主的な文民統制における、ミリタリー(軍人)と、シヴィリアン(政治家)の関係と同じです。

・ミリタリー(軍人。弁護士の暗喩)は、奉仕すべきシヴィリアン(政治家。クライアントの暗喩)に対して、判断の前提たる選択肢を抽出整理し、上程します。

・その際、各選択肢には、客観性を貫いた、怜悧なプロコン情報(長所短所情報)も付加します。

・最後に、選択するのは、シヴィリアン(政治家、クライアント)です。

・どんなに馬鹿げた、どんなに悲惨な結果が予知される、どんなに経済合理性なき選択であっても、ミリタリー(軍人、弁護士)は、選択には介入しません。

・なぜなら、結果を負担し、責任を負うのは、シヴィリアン(政治家、クライアント)だからです。

・選択ができるのは、失敗した場合に、誰にも八つ当たりできず、ただただ、その選択帰結を負担する、シヴィリアン(政治家、クライアント)だけだからです。

・ミリタリー(軍人、弁護士)は、シヴィリアン(政治家、クライアント)が決断した選択肢は、どんなに愚劣で不合理で不経済なものであっても、稼働環境(兵糧や資源)が続く限り、当該選択肢が、正解になるよう、努力をします。

・ただ、努力は、あくまで、ミリタリー(軍人、弁護士)が自己制御課題として、自らの営為でなしうる範囲に限定されます。

・他方で、作戦行動を行う上では、外部環境や、他者動向(相手方や裁判所)に依存する割合が大きく、神ならざるミリタリー(軍人、弁護士)では、他者の制御は、不可能です。

・ミリタリー(軍人、弁護士)は、稼働環境や外部環境の制約下で、倫理にしたがい、誠実に行動する限り、結果については一切無答責の立場です。

たとえば、09174のような労働事件の場合、弁護士が、クライアントに対し、
「経験則上の期待値をふまえた経済的合理性に基づく判断」
を助言はできても、クライアントから了承をもらわないことには、相手方に対し、勝手に、条件提示等は一切できません(クライアントとの関係では越権行為になりますし、相手方代理人との関係でも、不誠実な交渉したことで責任が発生しかねません)。

選択するのは、クライアントです。

なぜなら、結果を負担し、責任を負うのは、クライアントだからです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01974_労働事件における交渉条件提示を会社側が躊躇あるいは放置していることのリスク

労働事件において、交渉のテーブルに双方がついた状況で、
「交渉を進めるための(会社側からの)妥協的条件提示がなかなかできない」
ことに相手方がしびれを切らした場合、訴訟(ないし労働審判)に移行、という最後通告を受けかねません。

弁護士としては、クライアントである会社側から、方針について
「了承」
をもらわないことには、相手方に対し、勝手に条件提示等は一切できません(クライアントとの関係では越権行為になりますし、相手方代理人との関係でも、不誠実な交渉したことで責任が発生しかねません)。

無論、会社として、
・「法廷闘争も辞さない」
かつ
・「そのための弁護士費用追加分や内部人員の動員を含めた費用増加も辞さない」
加えて
・「上記のような時間とコストとエネルギーを費消したにもかかわらず、示談段階より不利な高額支払いを命じられるリスク(というか高度の蓋然性)も覚悟の上である」
という理解認識である、ということであれば、それはそれで1つの判断です。

可能性の問題はさておき、弁護士としては、クライアントの判断を尊重し、(無論、費用はかかりますが)出来る限りの支援をします。

ただ、価値観やアイデンティティの問題として、
「経験則上の期待値をふまえた経済的合理性に基づく判断」
を捨象して、情緒的な決断をした場合、その結果は、
「(会社にとっては)より腹立たしい、経済的不利を招来する」
という高度の蓋然性は、プロの立場として指摘せざるを得ないことも、クライアントは了承しなければならない、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01973_任意整理と民事再生は別物その6_絶対的正解ともいうべき提案モデル

任意整理について、
「債権者宛への提案においては絶対的正解ともいうべき提案モデルがある」
という前提をもつ債務者は、少なくありません。

しかし、相手側(債権者)の
「同意する」
「同意しない」
という態度に依存する課題である以上、この前提自体には異論を唱えざるを得ません。

もし、”絶対的正解”が存在する前提で弁護士に相談するならば、弁護士は能力以上のことを求められることとなり、相談者にとっても、弁護士にとっても、不幸な帰結となります。

だからといって、
「任意整理の提案で相手側(債権者)の同意を得ることができないのであれば、民事再生の移行を検討する」
として、債務者が、
「民事再生の手続き帰結においても、(トレンドや一般傾向ではなく)絶対認可されるような正解となるべき計画立案モデルがある」
という前提で相談をしてきたとしても、弁護士としては、その前提に同意はできません。

たしかに、民事再生の1つである小規模個人再生では
「8割カット、分割弁済」
という
「トレンド」
が、あるにはありますが、絶対というわけではないからです。

教条主義的な立場(信用保証協会や政策金融公庫)や、弁済率向上を狙う一部信販会社が、不同意で、計画を潰す、という例も少なくないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01972_任意整理と民事再生は別物その5_再生計画の前提

任意整理を希望する債務者が、民事再生を前提とするような再生計画(債権大幅カットと分割弁済)に、
「債権者の多数の同意と認可を見込めるであろう」
と企図しても、弁護士としては、その検討・構築には疑義を挟まざるを得ません。

弁護士に依頼さえすれば、債権者から”大幅な債権カットとカット後債権の分割弁済を受諾を得る”ことは可能であろうと、考えるのでしょうが、そもそも、契約自由の原則が働く任意整理と公権力介入型手続きである民事再生は別物です。

もちろん、任意整理は和解の一種であり、相手の同意可能性を捨象して、
「言うだけタダ」
「とりあえず言ってみる」
「やってみなはれ」
という形で、(民事再生でもないのに)民事再生を前提とした再生計画(債権大幅カットと分割弁済)を提案すること自体は、絶対ダメ、とか、許されない、とか、違法、とかいうわけではありません。

ただ、債権者に相手にされず、時間の無駄ですし、また、債権者の信頼を喪失し、今後、まともなコミュニケーションができなくなる、さらには、より強硬な対応を招きかねません。

何より、
「(民事再生でもないのに)民事再生を前提とした再生計画(債権大幅カットと分割弁済)を提案」
してくる代理人(弁護士)は、今後、相手にされない可能性があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01971_任意整理と民事再生は別物その4_小規模個人再生

一般論として、
小規模個人再生は、8割カット、らくらくチャラ」(額にもよります)
というように、いわれます。

そこで、任意整理を希望する債務者が、再生計画を
「小規模個人再生」
を”参考尺度”として考えがちですが、そもそも、その前提は働きません。

債権者に対して、
「小規模個人再生だと、このくらいチャラにされるのだから、これを前提とした任意整理でいいだろ?」
という働きかけ自体が、失当と考えられます。

なぜなら、任意整理と民事再生は手続きが別物だからです。

債権者にとって、任意整理は、公権力介入型手続きである民事再生とは、格式と信頼性が違いますし、契約自由の原則が働く以上、理由なく元本を割り込むような弁済案には応じる義務もなければ応じる理由もなく、さらに言えば、応じると背任的と非難されかねません。

ですから、小規模個人再生の経過予測をどれほどしたとしても、任意整理の参考値にはならない、ということなのです。

ちなみに、
「小規模個人再生」
であっても、運用や債権者の動向に左右される要素が”絶無”とはいえません。

楽観的に手続きをすすめて、あとから厳しい状況(というか、本来の民事再生法の理念にしたがった、堅実で厳格な処理の結果)で右往左往する、という債務者が少なからずいるのは、上記のような前提の違いを誤解していることに起因しているようです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01970_任意整理と民事再生は別物その3_小規模個人再生と給与所得者等再生

個人再生は、民事再生の1つです(民事再生法221条以下に規定がある手続き)。

個人再生には、
「小規模個人再生手続」
「給与所得者等再生手続」
2つの種類があります。

個人商店主や小規模の事業を営んでいるオーナー経営者を対象とする
「小規模個人再生」
は、
主にサラリーマンを対象とする
「給与所得者等再生」
とは、別物です。

給与所得者等再生については、
「可処分所得を一定期間きちんと吐き出せば、債権者からイニシアチブを取り上げ、一方的に(債権者に)泣いてもらって、あとはチャラ」
という制度設計が前提となっているので、可処分所得計算は制度活用前提となり、厳密性が要求されます(加えて、いい加減なことをすると、申立代理人を含め、公平誠実義務に悖ります)。

小規模個人再生については、
「最終的に債権者のイニシアチブに委ねられる」
という制度前提なので、上記ほどの厳密性はないものの、とはいえ、再生原因や現状を記述する際、家計状況を申述する必要は出てきます。

このようなことですので、(家計状況を)出す・出さないレベルの話でいえば、小規模個人再生だからブラックボックスでいい、ということにはならないものの、意味や役割が異なります。

極論を言えば、
「年収1000万円超で、余裕のある生活をしながら、負債総額の10%を3年で返し、あとはチャラでいいだろ」
という再生計画を作成することもなくはありませんが、
・債権者の同意を得る手前で、再生委員や裁判所が嫌悪して認可を渋る(あるいは計画の練り直しを要求する)
・債権者が、債権者作成の再生計画をぶつけてくる(普通はそんな暇な債権者はいないと思いますが、教条主義的な債権者もいるので)
・債権者が同意しない(これも稀とは思いますが、論理的可能性として、「年収1000万円超で、余裕のある生活をしながら、負債総額の10%を3年で返し、あとはチャラでいいだろ」という再生計画を前にして、「忌避感を示し、これが行動としてあらわす債権者が絶無」とは断言しきれない、というところです)
という理論的リスクが残る、という筋の話です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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