00003_「企業法務」の具体的内容>予防対策フェーズ(フェーズ3)>予防法務その2・コンプライアンス法務(内部統制システム構築・運用法務。企業の法令違反行為に起因する不祥事予防のための法務活動)(フェーズ3B)

法務活動の中で、現代型企業法務の中核である予防法務、すなわち、トラブル予防のための法務活動が挙げられます。

予防法務は、契約事故・企業間紛争を防ぐための予防活動(契約法務)と、法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス法務)とに分類されますが、後者、すなわち、内部統制システムを構築・運用し、法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス法務)も、現代の企業法務において極めて重要なオペレーションを構成します。

前者(契約法務)に関しては、契約自由の原則に立脚し、企業の優位を確立するため、提案された契約書のリスク・シミュレーションとリスク・コントロール(リスクの回避・移転・保有等)を行い(契約書精査)、契約条件について利己的・功利的に交渉し(交渉法務)、その成果を緻密に文書化していくこと(契約書作成法務)が活動のポイントとなります。

内部統制システムを構築・運用し、法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス法務)も、リスクの発現を予防する、という意味において、予防法務活動であることは契約法務と共通点があるものの、働きかけの対象やアプローチ等が異なります。

契約事故を防ぐ契約法務の場合、リスク発現の起点が社外の契約相手方であるところ、企業の法令違反等の企業危機や不祥事というリスク発現の起点は、社内の役職員の規律から逸脱した行動にある、という点が顕著に異なります。

すなわち、内部統制システムを構築・運用し、法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス法務)における予防を働きかける対象は、自社内の役員や従業員である、という点であり、リスクを理解させ、行動を規律させ、規律から逸脱した行為や計画を早期に発見・抑止し、あるいはすでに行われた不正等を規模が大きくなる前に早期発見して被害軽減措置を取り、さらに、不正等を行った役職員に対して適正に是正措置や懲戒措置を与える、という、内部管理活動がその内実となります。

この、内部統制システムを構築・運用し、法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス法務)を推進する上で、最大の障害となり得るのは、楽観バイアスや正常性バイアス、あるいは性善説に基づく、認知や状況理解・解釈における不全状態です。

「当社の役職員は皆誠実で善良であり、法令や内部規律を破るような悪い人間は皆無であるので、これと逆の想定に基づく、予防措置など不要で無用」
という誤認識によって、コンプライアンス法務がおざなりになったり、あるいは、この種の法務活動を一切行わない、という態度決定がなされることが多くの企業において見受けられ、この前提誤認によって、潜在的な企業危機・不祥事リスクが増大していきます。

パソコンでもスマホでもAI(人工知能)でもない、一介の
「動物」に過ぎない人間
は、生きて活動する限り、ルールやモラルと本能が衝突したときには、本能を優先します。

したがって、人間は生きている限り、法を犯さずにはいられません。

このことは歴史が証明している事実です。

また、そのような人間の集合体である組織も同様、本能、すなわち営利社団である企業の本能である
「営利追求」
と、法が衝突した場合、いとも簡単に法が無視され、破られます。

「たとえ、赤字転落しても、正直に赤字決算を発表しようよ」
「どんなに切羽詰まっても、また、どんなに実質的に影響がないということがあっても、杭打ちデータのコピペは良くないからやめとこうよ」
「会社がつぶれても、我々の生活が破壊され、家族一同路頭に迷うことになっても、守るべき法や正義はある。ここは、生活を犠牲にしても、法令に違反したことを反省して、社会や外部からいろいろといわれる前に、非を認めて、責任をとって、会社を早急につぶそうよ」

企業に集う人間たちが、そんなご立派なキレイゴトを、意識高く話し合い、高潔に、自分の立場や生活や財産を投げ打って、家族を犠牲にしてでも、法を尊重していく、ということはおよそ考えられません。

人が群れると、
「互いに牽制しあって、モラルを高め合い、法を尊重する方向で高次な方向性を目指す」
どころか、
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」
という方向で、下劣な集団意識の下、理念や志や品性の微塵もない集団行動が展開することが圧倒的に多く見受けられます。

ましてや、企業という生き物の本能は、会社法が明確に定義づけるように
「営利の追求」
です。

弱者救済でも、差別なき社会の実現でも、社会秩序や倫理の発展でも、健全な道徳的価値観の確立でも、世界平和の実現でも、環境問題の解決でも、人類の調和的発展でも、持続可能な社会の創造でもありません。

こういう前提認識を明確にもち、
「常にかつ当然に、企業内には、組織に属する役職員によって法が破られ、不正が発生する可能性、危険性が具体的かつ現実的に存在する」
という想定の下、これらのリスクを、早期に発見し、大きくなる前に是正し、再発しないような仕組みを考え、実行し、ということを繰り返す活動が求められます。

日本最大の従業員数を誇る企業であるトヨタの正社員数は37万人とも言われます。

和歌山市や長野市にも匹敵する人数です。

和歌山市長や長野市長が、
「我が市民皆は、誠実で善良であり、法を破るような悪い人間は皆無である」
などといって、刑罰法規も、警察も検察も裁判所も廃止し、治安維持や犯罪検挙・刑事司法等を一切やめてしまったら、どのような事態が起こるか。

相応の規模を有する企業が、
「当社の役職員は皆誠実で善良であり、法令や内部規律を破るような悪い人間は皆無であるので、これと逆の想定に基づく、予防措置など不要で無用」
という考えで、コンプライアンス法務推進を懈怠するのは、これと同様の危険性ある選択であり、現実としても、牧歌的な性善説に依拠して、コンプライアンス法務をおざなりにしてきた企業が、軒並み不祥事や企業危機を発生させ、中には、破産や廃業に追い込まれたところも少なくありません。

いずれにせよ、内部統制システムを構築・運用し、法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス法務)は、今世紀において、企業の存亡の鍵を握るといっても過言ではないほどの緊急性と重要性を帯びるテーマであり、企業のゴーイング・コンサーン実現のため、しかるべき形で、体制整備と資源動員を行い、推進する必要があります。

運営管理コード:CLBP23TO24

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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