00014_企業法務部門の規模格差と、中小企業・ベンチャー企業における法務体制充実に向けた取り組み

わが国最大の企業横断的法務担当者組織である経営法友会(会員会社数は1200社超)の会社法務部実態調査においては、調査基準として、企業法務部門を規模別に、
1~4名を「小規模法務」、
5~10名を「中規模法務」、
11~30名を「大規模法務」、
31名以上を「メガクラス法務」
として分類しています。

経営法友会の実態調査をみる限り、企業の時価総額と法務部門の規模は概ね比例しており、筆者の主観を交えてざっくりとした印象で整理すると
時価総額50億円未満の企業が概ね「小規模法務」(1~4名 )、
時価総額50億円以上500億円未満の企業が概ね「中規模法務」(5~10名 )、
時価総額500億円以上5000億円未満の企業が概ね「大規模法務」(11~30名 )、
時価総額5000億円以上の企業が概ね「メガクラス法務」(31名以上 )、
というイメージで捉えることが可能かと思われます。

他方、小規模法務の内実として、法務部員一人だけの法務部(一人法務)も、回答会社数の1割程度含まれています。

また、資本金5億円未満の企業における法務部門設置率は約3割とされており、7割の中小企業では法務部を欠いた状態で経営を行っているようです。

「7割の中小企業において、法務部を欠いた状態」
とはいえ、
「法務部を設置する余裕はなくとも、顧問弁護士くらいはいるだろう」
との期待はできそうですが、現実には、
「(法務部はおろか)顧問弁護士すら不在」
という経営体制も相当数存在するようです。

古いデータですが、 2005年に
大阪市立大学大学院法学研究科「企業法務研究プロジェクト」
が実施した調査によると、1838の大阪府下の中小企業中、顧問弁護士がいないと回答した企業は1530社(83%)に上ったそうです(高橋眞、村上幸隆(編)『中小企業法の理論と実務』民事法研究会刊、2007年、591頁)。

東京に次ぐ大都市である大阪ですらこのような状況ですから、その他の地方都市の企業の法務支援体制として、
「顧問弁護士すら不在」
という経営体制の企業が相当な割合で存在するであろうことは容易に推測可能です。

地方では弁護士の数が不足していることもあり、税理士や司法書士、行政書士が事実上顧問弁護士としての役割を担い、企業の契約書をチェックし、法務上の相談に応じ、ときには訴訟指導等もしていることは公然と知られた事実です(無論、これら非資格者による法律業務は弁護士法違反を構成し、罰則すら適用される重篤な違法行為です)。

そして、このような法務上の不適切な処置が原因で後日深刻なトラブルに発展するケースも実に多く存在します。

現代の産業社会は、法務体制を欠如した企業が生き残れるほど寛容ではありません。

有効な企業法務上の助言がえられないばかりに、不祥事や契約リスクが現実化し、倒産や廃業等を余儀なくされ、市場から退場させられた企業は数多く存在します

とはいえ、著者としては、
「すべての企業が法務部が必要」
などという、過剰かつ非現実的なことを言うつもりはありません。

「弁護士資格をもたない者による、違法で不適正な法律相談に依拠して法的判断を行うこと」
は論外としても、企業の規模によっては、顧問弁護士をいわば
「社外の独立法務部」
のような形で機動的に動いてもらうことにより、
「企業規模に応じた合理的な充実度を有する法律体制」
を整えることは十分可能です。

実際、私の顧問先企業においては、法務部が存在しないものの、管理担当役員や、経理や財務等の非法務セクションの部長等が、対応窓口(法務マターに関する報告・連絡・相談を実施する窓口)となって、顧問契約をしている法律事務所を、社外の独立法務部のような形で機能させている中小企業、ベンチャー企業は相応数存在します。

この種の企業は、社内に恒常的に活動する法務組織はないものの、トップマネジメントと対応窓口と顧問弁護士との三者連携で、相当充実した法務体制を整え、紛争予防をほぼ完全な制御下に置いています。

また、偶発的に生じるトラブル対応も、即時適時に、実戦経験豊富な弁護士が、紛争萌芽期から直接対処するので、
「大事を小事に、小事を無事にするような、効果的な有事対処」
することが可能な体制が整備されています。

無論、このように、 顧問弁護士をいわば
「社外の独立法務部」
のような形で機動的に稼働させる前提として、顧問弁護士サイドにおいて、法律上の知見やリーガルマインドはもちろんのこと、顧問先企業のビジネスモデルや個々の事業活動に対する即時かつ十全な理解を可能にする
「ビジネスマインド」
を有することが大前提となります。

また、顧問弁護士と、対応窓口との間における、効果的な
「報告・連絡・相談」
を可能にするためには、顧問弁護士において、難解な専門用語を振り回して曖昧な態度で煙に巻くような助言スタンスで逃げたりせず、法的本質を十分理解した上で、明快な結論や判断分岐における選択肢を明瞭に提示できるスキルを有し、さらに、アナロジーやメタファーやプレインランゲージを用いて
「ビジネスパースン」
として会話できる、コミュニケーション力も必要になります。

いずれにせよ、企業法務部門の充実度は、企業規模において実に様々であり、数十名の専門部員が常駐する法務部を擁する企業が存在する一方、創業間もないベンチャーや零細企業においては、顧問弁護士すら不在の状態で凌いでいる、という厳然たる格差が実体として存在することは事実です。

他方で、法曹人口の増加傾向も相まって、今後、ますます社内弁護士や法務専門職雇用が増え、あるいは、弁護士の競争激化に伴い、弁護士も
「よりクライアントサイドにおいて使い勝手の良い」
と評価されるためのスキル改善向上(とくに、ビジネスモデルの理解や、コミュニケーション力の改善)を行い、総合的な底上げが期待されるところであろう、と思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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