00015_企業法務ケーススタディ(No.0001):提携交渉中に交渉相手が突然態度を豹変し、一方的に破談を申し渡された

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ナニワ信託銀行 取締役 梅田 虎男(うめだ とらお、58歳)

相談内容:
先生、ちょっと聞いとくれやす。
わてらナニワ信託銀行は、業界大手の東海信託銀行さんと
「業務提携しまひょか」
ゆうことになりましてな、先生が提示した覚書に署名して、2年くらいかけて、話し合いしとったんですわ。
会計士さんやら入ってもろて、提携条件も詰まって、もうこれで決まりや、ゆうとこまできましたんや。
忘れもしませんわ。大筋で条件が決まった昨年秋ごろでしたかいな。
先方さんから急に
「親会社の意向が変わったんで提携話はナシにしてくれ」
と、こうゆうてきはりましたんや。
しかも、噂によると、東海さんとこは、ウチの宿敵関東信託銀行さんと提携するという話ですわ。
もうウチの会長カンカンで、
「そんなん契約違反や。鐵丸先生とこに頼んで東海さんとこにヤキ入れてもろうて来い!」
とこうなったわけですわ。
先生、どうしたらいいかお知恵を拝借できまへんか。
ほんま、よろしゅう頼んますわ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:交渉破談と賠償請求
クライアントであるナニワ信託銀行も、相手方である東海信託銀行も、約束事の明瞭な文書化を避けて、
「信頼関係」
を唯一の基礎にして、 話を進めてきましたが、不幸な事に、
「信頼関係」
の解釈が真逆でした。
すなわち、ナニワ信託銀行においては
「交渉を破談にするのであれば、相応の賠償をするのが信頼関係 」
と考えていましたが、相手方の東海信託銀行は
「状況が変わったら、過去の経緯にとらわれず、交渉から解放してくれるのが信頼関係 」
と考えていた点に、不幸な紛議の根本的原因があります。
提携交渉に着手する前に交わすべき契約内容としては、提携交渉の背景や経済的動機の確認、交渉中取り交わされる情報の保秘、交渉期間中に第三者と同種の交渉を行なうことの許否、当事者の違約があった場合の賠償措置などが盛り込まれます。
最近では、違約を行なった場合の措置の内容として、賠償額の予定や違約罰まで定めることが必要です。

モデル助言:
さて、ナニワ信託さんは交渉前に覚書は取り交わしていたわけで、それは評価できますね。
しかし、この覚書を読んでも、東海さんがナニワ信託さん以外の第三者と交渉することまで禁止しているかという点については明らかではない。
それに、約束違反した場合の賠償ルールについても、単に
「相当額の賠償をする」
としか書いていません。
これだと、ナニワ信託さんに独占交渉権があったか否か自体争われますし、交渉権を侵害した場合の損害論もこちらが主張立証しなければならない。
会長は、提携の利益である100億円損害賠償請求するとおっしゃっている?
うーむ、ちょっとそれは難しいでしょう。
今回の契約は
「提携するかについて交渉する約束」
であって、
「提携する約束」
ではありませんからね。
裁判では、交渉経過での東海さんのやり方の非違性をていねいに主張して、せめて契約違反を認めてもらいましょうか。
契約が未成立の段階において交渉相手が一方的に破談させた場合に交渉費用相当の損害賠償を認めた裁判例もありますから、独占交渉権の明記がないと判断されたとしても、裁判所の理解は得られるでしょう。
あとは、あまりつっぱらず、尋問終了後、裁判所が和解を勧めてくれた段階で、うまいこと和解で決着するのが賢明ですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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