00039_事件や事故を起こしても、そう簡単に“法的”責任を負担させられることはない

企業が大きな事件や事故を起こしてしまえば、マスコミやネットでは、理由や背景を問わず、すぐさま、バッシングをはじめ、その結果、当事者企業は、大きな社会的非難や道義的非難が加えられます。

ところで、道義的責任や、社会的責任はさておき、“法的”責任というレベルでは、どうなるのでしょう?

企業が何らかの事件や事故を引き起こしたとしても、民事上の被害者や検察当局が、企業の不始末がに対する各種法的責任を追及するには、実に多くのハードルが存在します。

まず、刑事責任追及のためには、
「どの法典の、どの条文の、どのような禁止行為に該当するか」
を特定した上で、さらに、故意や過失といった主観要件について、捜査当局が、極めて高い立証のハードルを超えて証明しない限り、関係者が刑事責任を負担することはありません。

当該事故を起こした個人ではなく、所属法人である企業を処罰するには、特別の規定が必要ですし、刑事法の解釈にあたっては、類推解釈のようないい加減な解釈手法も一切禁止されます。

また、民事責任についても、故意過失による権利侵害行為を特定し立証するだけではなく、被害者に生じた具体的損害について、逐一証拠により証明しなければなりません。

加えて、損害と言っても、そもそも具体的な損害を明確に特定し、立証する必要がありますし、因果関係がないものや予見し得ないものは賠償の対象から外れます。また、被害者が損害拡大防止措置を講じないと過失相殺されることもあります。

そして、これらの主張や立証を裁判で行うことは、時間とエネルギーを要する、極めて面倒くさい作業です。

当然ながら、被害者の負担において私的に弁護士を雇って、以上のような主張立証課題の克服が求められるのです。

日本には懲罰的賠償制度はありませんので、どんなにひどいケースでも、裁判所が、実際被った損害以上の賠償を命じることはありません。

このように、日本の損害賠償制度は、極めて、加害者にやさしく、被害者に過酷なシステムです。

逆の言い方をすれば、事件や事故を起こした場合であっても、企業側の権利や立場は、ことのほか手厚く保護されており、(道義的責任や社会的責任とは別次元の)法的責任が追及される場面においては、さほど慌てる必要がないですし、逆に慌てる必要がないのに、恐慌に陥り、無用な自白や責任負担の表明をすると、掘らなくてもいい墓穴を掘ることになりかねません。

いずれにせよ、事件や事故が起こしたとしても、まずは、慌てず、環境や状況を冷静に見定め、客観的かつ理性的に展開予測を行い、正しく、賢く対応することが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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