00041_創業社長引退後の内紛防止をするための、会社法活用術

会社法は、旧商法時代と比べ、会社運営設計に格段の柔軟性をもたらしました。

旧商法時代から機関設計(マネジメント・ストラクチャー)については相当程度柔軟な方向で法改正(法発展)がなされてきましたが、会社法時代になって、この柔軟性の指向が、所有設計(オーナーシップ・ストラクチャー)にまで及び、ついに、一定数以上の株主の賛与を前提ないし条件として、
「株式」
という基本的な権利についても、権利内容を自由に設計できるようになりました。

この
「株式の内容の多様化(さらに敷衍すれば、不平等化、差別形成)」
という法改正(法発展、法進化)、企業の新しいファイナンス手法の開発を促したり、上場企業の買収防衛策に活用できたり、と大企業にとって非常に大きな意味をもつことになりました。

しかしながら、このような
「株式の内容の多様化(=不平等化、差別形成)」
は、非公開のファミリー企業においても、会社の内紛防止策として活用することもでき、使いようによっては、(伝統的な会社法概念を前提とすると)革命的ともいえる劇的な効果を発揮する体制整備が可能となります。

家族経営の企業で、何らの措置も講じることなく創業社長が逝去すると、血で血を洗う内紛が生じます。

株式会社は
「保有株式の多数決により役員選任や会社の基本事項を決める」
という建前に立っていることから、株式が思惑や利害の異なる人間に分散すると、何を決めるにも一々衝突が顕在化してしまうからです。

東京地方裁判所に商事部という会社紛争を専門に裁く部(東京地裁民事8部)がありますが、
「東京地裁商事部に持ち込まれる紛争のほとんどが、会社紛争に名を借りた、ファミリー企業の身内のゴタゴタである」
というのは、法曹界ではよく知られた事実です。

創業社長としてこういう事態を避けたいのであれば、会社運営の投票権(株式)を不平等化・差別化し、
「後継者として指定した子“のみ”が“非民主的に”会社運営する体制」
に変更してしまえばいいのです。

具体的にいいますと、会社の定款を変更して、現在発行済の普通株式の一部を
「議決権制限株式」
にしてしまい、後継者のみが議決権付株式を遺言で取得するようにする方法を用いるのです。

その他、非公開会社では、株主の権利(利益の分配や議決権)について、持株数に関わりなく株主毎に不平等に定めたり、その代償措置として他の株主の配当を多くするようなこともできます。

例えば、
「三男には会社支配権を残し、長男と次男にはその分カネを多くもらえるようにする」
ということも可能です。

ただ、この方法ですと、遺言というシステムになじまないので、死後にオートマチックな政権移譲を行うことは難しくなりますが、税務的な問題をクリアして事前に株式譲渡を行っておいたり、これに信託を絡めると、相応の内紛防止のための体制整備が可能となるはずです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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