00042_企業法務ケーススタディ(No.0010):消滅時効で売掛金が消失するリスクに注意を

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社イダテン急便 会長 佐山 信(さやま しん、67歳)

相談内容:
先生、どうもお世話になっております。
ようやく景気が戻ってまいりまして弊社取扱高もうなぎ登りです。
ネット企業っていうんですか、最近は、インターネット販売の業者からの依頼が急増しており、時代を感じますね。
ただ、ネット企業ってのはタチが悪いですな。
先日もちょっとおかしなことがありまして、今日は、相談に参りました。
最近、本やDVDをネットで格安販売している会社がありますよね。
そうそう、
「サバンナ・ドット・コム」
とかいう会社です。
サバンナは、彼らがまだまだ小さい会社のころから受注品の配達を請け負って参りました。
ところが、最近当社に税務調査に入ったことがきっかけで、請求漏れが判明しました。
私もそんな大した額ではなかろうと思っていたのですが、それが結構な額でして、ざっと2000万円にもなります。
ちょっと前に実家の酒屋を継ぐってことで辞めてった営業課長がいい加減な人間で、どうやらそいつのチョンボらしい。
当社が仕事をしたのは紛れもない事実なので、サバンナさんに払ってくれっていいましたところ、担当の経理部長は
「すぐ払わしていただきます」
なんていってたのに、最近入った法務部長が横やりを入れてきて
「時効だから支払わない」
なんて言い出した。
私も時効ぐらい知っていますが、5年だとか10年だとかの話でしょ。
せいぜい2、3年前の話で時効はないでしょう。
サバンナだか野蛮人だか知らないけど、こちらとしてもそんな社歴もない、成金企業風情からバカにされて、黙っているわけにはいかない。
先生、お願いですから、利息も含めてきっちり支払わせ、オトシマエをつけてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:時効のバリエーション(2020年4月1日民法改正により解消予定)
本ケースでは、時効が問題になっています。
一般に、債務が消滅する時効期間は、民事10年、商事5年といわれており、原則としてはその理解で差し支えありません。
民法改正(2020年4月1日施行)によってずいぶん統一化され、混乱は少なくなりましたが、現時点(2019年4月)では、かなり様々なバリエーションが存在しており、5年より短い時効で消滅してしまう債権が相当数あります。
例えば、請負人の工事に関する債権の時効は3年ですし、メーカーや問屋の商品売掛代金債権の時効は2年、ホテルや旅館の宿泊料・クラブやレストランなどの飲食料の債権の時効は1年です。
そして、今回問題になっているイダテン急便のような運送料の債権も1年で時効消滅することが定められています(民法第174条第3号)。
すなわち、サバンナ社の法務部長の主張は明確な法的根拠に基づくもので、イダテン急便の債権は時効で消滅していることになります。

モデル助言:
御社の場合、債権を1年以上放置したら基本的にアウトです。
もっとしっかり管理すべきですね。
営業部隊は仕事を取るのに必死で、細かい管理は苦手でしょうから、セールスと請求管理は別ラインで動かす方がいいかもしれませんね。
今回の件は確かに時効が完成してほぼ絶望的ですが、
「いったん時効が完成しても、債務者が債務を承認したりその素振りを見せたりした場合は時効が中断したり援用できなくなったりする」
という判例法理(時効援用権喪失法理)があるので、これが使えるかもしれません。
サバンナの経理部長が、当初支払う意思を見せたとのことですが、これについてファックス等の記録が残っていれば、この法理を用いて、時効の抗弁を封殺できるかもしれませんね。
とにかく詳細を調べてみましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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