00069_企業法務ケーススタディ(No.0023):敵対的TOBは、グズグズせず、一気呵成に成し遂げるべし

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社プリンス製粉 社長 温味噌 洋一(ぬくみそ よういち、45歳)

相談内容:
これはトップシークレットなんですが、この度、当社は、東証2部に公開している東北製粉を買収することにしました。
当社はかねてから設備増強と商圏の整理統合を考えていたのですが、現在の当業界における再編のスピードを考えると、チンタラやっている余裕はありません。
幸い、手元キャッシュとメインバンクからの借入とファンドからの資金提供もあって、過去3カ月の東北製粉の平均株価に20%ほどプレミアムを付けた価格で公開買付できる算段がつきました。
東北製粉は現状買収防衛策等一切整えていないようであり、敵対的な公開買付を実施しても、特段障害は見当たりません。
ただ、いよいよ敵対的TOB実施段階になって、今回買収アドバイザーを依頼したよこしま銀行から
「乗っ取りだとイメージが悪い。
過去敵対的に公開買付をして成功した例は少ない。
TOBが可能な状況であることをブラフに用いて、東北製粉の経営陣と話し合い、彼らを説得して、友好的に進めてみるべきだ」
という助言がありました。
とはいえ、東北製粉の経営陣は独立不羈の気風が顕著で、会社を我が物と考えているような節があります。
プライドの高い経営陣が、
「業界再編の中、共に生き残ろう」
という当社の説得に応じてくれる可能性はゼロでしょうが、アドバイザーの助言も気になります。
硬軟両策あり得るところですが、鐵丸先生のご意見はいかがでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:熾烈な攻防戦が目まぐるしく展開する敵対的買収戦
かなり前の話になりますが、王子製紙と北陸製紙との間で敵対的買収の攻防が繰り広げられました。
王子製紙は、当初、北陸製紙に対して経営統合を申し入れたようですが、北陸製紙側はこれを拒否。
その後、王子製紙の乗っ取りの動きを察知した北陸製紙は、ホワイトナイトとして三菱商事に第三者割当増資の引受を依頼する等、着々と防御策を講じ始めました。
王子製紙は、経営統合打診から20日も経過した後、公表前の終値に35%以上のプレミアムを付けた価格(860円)によるTOB実施計画を発表しました。
北陸製紙経営陣側は、ホワイトナイトの三菱商事に1株607円という安値での増資引受を進めるほか、さらに、日本製紙がTOB阻止目的で北陸製紙株の8.85%(約150億円相当)を取得したこと表明するなど邪魔が入りだしました。
三菱商事の増資が完了して出資比率が24.4%になりましたが、王子製紙は、増資を非難するも、差止のための裁判は見合わせる態度を取りました。
TOB価格を800円に引き下げたこともあってかTOB応募は5.3%にとどまり、最終的に、王子製紙は、TOBの不成立を宣言するに至りました。
王子・北陸の攻防戦が行われた当時、製紙業界は、原料の高騰に加え、外国の廉価品の流入、国内企業間の過当競争という、典型的な再編圧力下状況にありました。
王子製紙の敵対的買収は、それまでのファンド主導の買収事案と異なり、
「事業会社による至当な理由によるもの」
と評価されたこと、さらには、王子製紙のTOB価格に妥当なプレミアムが付けられていたこと等もあり、当初、王子製紙の敵対的買収は株式市場から好評価を受け、買収成功との見通しが支配的でした。
しかしながら、経営統合打診からTOBの公表までに20日間、TOBの公表からTOBの実施までに10日間、という無意味な
「間」
を空けてしまったことから、北陸製紙に防御策を実施する余裕を与えてしまい、また、TOB阻止目的での日本製紙の参戦を招くという失敗を犯しました。
三菱商事への安値での増資については、有事に実施された点も含めて考えると、不公正な増資である疑いがあるので、これを裁判所に訴え出ることも可能であったにもかかわらず、王子製紙は、手をこまねいてみているだけでした。
専門家の間では、このような無意味な時間の空費と、
「やられたら、即座にやり返す」
という応戦姿勢の欠如が、王子製紙失敗の原因であるとの評価がなされているようです。

モデル助言:
TOBに宣戦布告なんて不要ですから、話し合い抜きで、いきなりTOBを開始すりゃいいんですよ。
そうしたら、相手方も、なりふりかまわず、安値で募集株式発行したり、重要な資産を切り離したり、無意味な提携を強引に進めたりとさまざまな防衛策を実施する場合があります。
「防衛策」
といえば聞こえはいいですが、
「有事にできる防衛策」
なんて、所詮、どれも会社法に違反するような代物です。
「防衛策」
なんてふざけた真似したら、間髪入れずに仮処分申立ててヤキを入れてやりゃいいんですよ。
とにかく、相手に余裕を与えることは有害無益です。
「事業会社のTOB」
であっても、
「アタマの切れるファンドや行儀の悪いベンチャー企業のTOB」
を見習い、相手に考える余裕もないくらいに先手を取り続けるべきです。
話し合いがすべて無駄とはいいませんが、話し合いをするなら、勝敗が決した段階で、刃を喉元に突き刺した状態でやるのが正しいあり方です。
ケンカなんて、準備を万全にし、気合と根性入れて、下品に、一気呵成に、進めた奴が勝つに決まってます。
無駄な上品さを追及する買収アドバイザーのアホな助言なんか無視して、徹頭徹尾
「ケンカ上等!」
モードで進めてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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