00095_企業法務ケーススタディ(No.0049):世間体の問題で破産できない場合の裏技!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ペンタゴン 社長 周恥 雄介(しゅうち ゆうすけ、29歳)

相談内容: 
いや、恥ずかしい。
先生、当社の子会社がどうにもこうにもなんなくて。
いえね、当社の子会社で、株式会社テトラゴンってのがあるじゃないすか。
あの会社、海外からコンテンツ買い集めるためにつくって、常務の都留野に任せていたのですが、この都留野、顔はいいけど、頭はメジャー級のバカで、コンテンツ買い付けを現地のエージェントに丸投げして、いいように騙されたり、あちこちでチョンボをしでかして、ろくに売り上げも立っていないのに既に8億円を超える負債を抱え込んでいて、破綻状態です。
監査法人からは
「テトラゴン社みたいな不健全な会社は、とっととつぶしてしまえ」
と矢のような催促が来るのですが、子会社とはいえ、
「破産」
となると、いかにも見た目が悪く、ただでさえ低迷している株価は一挙に急落します。
幸い、テトラゴン社の債権者のほとんどは取引先や知人社長で、ある程度話がつけられる先で、当社との新規取引とのバーターで債権の一部免除に応じてくれるところも相当ありそうです。
ただ、子会社とはいえ、そこそこの規模なので、任意整理みたいなグレーな処理だとかえって説明が必要になりますので、ある程度透明な処理が必要です。
とにかく、当社の子会社が
「破産」
とか
「民事再生」
とかになったら、大騒ぎになるので、こういうレッテルだけは回避したいんです。
なんとか、なりませんか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社の解散・清算
かつて、上場企業の株式を買い集めた某ファンドのトップが
「土地やカネをため込んで株主に還元しないなら、とっとと解散して、株主に分配しろ」
と主張しましたが、会計上は永遠の生命を持つとされる会社といえども、法律上は株主の都合で何時でも解体することができます。
すなわち、株主が会社を解散することを決めれば、清算手続が開始され、負債をすべて弁済した後に残った財産(残余財産)が株式数に応じて山分けされ、会社は消滅します。
この清算手続には、裁判所の監督は行われず、通常の事業活動と同様、会社関係者のみで自主的に進めることができます。
しかし、このような清算手続(通常清算)を取れるのは、債務超過ではない会社に限られます。
設例のような破綻会社の場合、債務弁済の過程で債権者間の不公平が生じる危険がありますので、裁判所が目を光らせる必要が生じます。
債務超過会社の破綻処理として一般的に考えられるのは、破産や民事再生ですが、裁判所から管財人や監督委員というお目付役が派遣され、強い監督や指導を受けなければならないほか、周恥社長の懸念のとおり、
「破産」

「民事再生」
というレッテルが貼られると、極めてネガティブなイメージが付きまとうことになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特別清算の妙味
ところで、会社法には、清算と破産のハイブリッド型の手続が用意されています。
会社法510条には、
「債務超過(清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りない状態)の疑いがある」
場合には、特別清算手続が可能とされています。
この特別清算手続ですが、裁判所の監督はあるものの後見的な監督にとどまり、破産手続のように管財人が派遣されて会社運営権が取り上げられるものではなく、会社が選定した清算人により自主的に清算手続を進めることができます。
そして、債権者と自主的に話し合い、ネゴが成立すれば、裁判所のお墨付きを得て、スピーディーに清算手続が完了します。
特別清算のおいしいところは、この
「債権者とのネゴOK」
というところです。
ある債権者は債権をとっとと全部放棄して税務上償却してしまうことを考えるかもしれませんし、ある債権者は親会社との何らかの取引とバーターで一部放棄するかもしれませんし。
このようなさまざまな思惑を、清も濁も全部ひっくるめ、ネゴが成立すれば、債務超過会社でも
「破産」
ではなく、
「清算」
という形で会社を解体してしまえるのです。

モデル助言:
要するに、特別清算っていうのは、
「債権者との談合による破産回避策」
という点で、非常に妙味のある手続なんです。
裁判所の監督を受けるので、外見上、透明性ある手続のように見えますし、対外的には、
「破産なんて、とんでもない。当社は、役割を終え、円満に清算したんですよ」
という取ってつけたような弁解も可能になります。
協定案は債権額の3分の2以上の債権者の同意が必要になりますが、裁判所のお墨付きを得るということも考えると、実務上はほぼ全員の同意が必要と考えていただいたほうがいいと思います。
少額債権者でキーキーわめくところには、保証なり連帯債務扱いなりして、親会社から全額払うこともアリですね。
清算人ですが、通常は清算法人の代表取締役が就くのですが、都留野さんが
「メジャー級のバカ」
だと不安でしょう。
適当な人がいなければ、当職が就任しても結構ですよ。
債権者のプロファイル付リストを早急に作っていただき、債権者対策の検討を開始しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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