00110_企業法務ケーススタディ(No.0064):MBOをするなら内部の組織固めをしっかりと!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社アレレ 会長 猪田 幸治(いのだ こうじ、42歳)

相談内容: 
先生、もう、上場なんかヤメですわ。
証券会社の口車に乗せられて上場してみましたけど、メリットなんか全然おませんがな。
監査報酬に証券取引所の上場料、株主総会運営コストに株主名簿管理の委託料、ほんでまた、四半期決算開示負担に、日本版SOX法対策のための文書化コストと内部統制監査費用でっしゃろ。
ホンマ、ボラれっ放しですわ。
「上場したら優秀な従業員が群れをなして集まってくる」
とか言われましたけど、来るのは
「学歴高いが使えん」
ちゅうヤツばっかりですわ。
そんなこんなで、MBOして上場廃止してまえゆうことになって、外資系のモレル・ピンチ証券と共同でのTOBすることになりましてん。
この話をするため、先週取締役会開催したら、取締役連中が皆
「反対や」
言いよるですわ。
理由を聞いたら
「せっかく『上場会社の役員』というステータスを手に入れたのに、非公開のエエ加減な会社の役員に戻ったら、カッコ悪い」
とかいうアホみたいな話ですわ。
ゆうても、根性ない連中ですから、睨みきかして一喝したらそれで黙ってしまいましたけどね。
私は細かいことようわからんので、今回のTOBの細かいことは財務担当役員の東野に丸投げしとるんです。
コイツは、もともと信用金庫勤めのウダツの上がらん経理マンやったのを拾ってやったんですが、
「上場会社の役員」
ちゅうステータスに最も固執しとって、
MBO反対派の急先鋒やったんです。
今はおとなしいですが、寝返らへんか心配ですわ。
先生、どんなもんでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:MBOと取締役会の賛同
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣による会社買収のことを言いますが、設例のように上場にまつわるさまざまなコストを忌避して、創業社長が上場廃止策として実施するケースが増えてきました。
「大変な思いをして上場しておきながら上場廃止にする」
など何とももったいない話ですが、逆に言えば、そのくらい上場維持のための直接間接の負担や敵対的買収リスクが大きくなっているのだと言えます。
MBOを実施するといっても、創業社長等の筆頭株主がポケットマネーで市場に出回っている株式を買い戻すのは困難ですので、金融機関から借り入れたり、共同でTOBを実行したりすることとなります。
協力してくれる金融機関はリスクを嫌いますので、契約上
「TOBについて取締役会が異議なく賛同表明すること」
をファイナンスや投資の条件として要求してきます。
創業社長が取締役会を押さえ切れず、取締役会がTOBへの協力を拒むと、MBOの契約(実際はTOBのファイナンスやTOB(共同買付契約)上、金融機関が直ちに手を引くことを定めておりますので、MBOはたちまち頓挫することとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:シャルレ事件
2007年に社長として招聘した元バレーボール日本代表選手を解任するという騒動を起こした婦人用下着販売会社のシャルレですが、同社創業家は、08年9月、モルガン・スタンレーグループと共同してMBOを提案しました。
当初、シャルレ社取締役会は、このMBO提案について、TOB価格の妥当性も含め、賛同していました。
ところが、その後、取締役会が豹変します。
「TOB価格が不当に安い等の内部通報が相次いだ」
として、外部弁護士を含む第三者調査委員会を立ち上げます。
そして、同委員会が
「利益相反行為があったとの疑念を払拭できない」
との調査結果を提出したことをもって、シャルレ取締役会として賛同表明を撤回し、創業家と真っ向から対立する構えを見せたのです。
モルガン・スタンレーとの契約上、
「シャルレ社取締役会の賛同」
が共同買付実行の条件となっていたため、結局TOBが不成立となり、ここにMBOが頓挫することとなったのです。

モデル助言: 
モレル・ピンチ証券会社との契約上、
TOB共同買付実行は御社取締役会の賛同表明が条件になっているはずです。
お話を聞く限り、東野氏はMBOの反対派の急先鋒で、しかもTOBの実務責任者というわけですから、東野氏はその気になれば何時でもMBOを潰せる立場にあります。
安易に考えるべきではないでしょう。
東野氏としては、気心の知れた弁護士や会計士に依頼して外部委員会を立ち上げ、当該委員会の口で
「MBOの手続きが不透明であり、アレレ社の企業価値を損ねる」
等の大義名分を言わせ
「委員会の威」
を借りて、取締役会決議でTOBへの反対表明が可能です。
MBO・TOBが頓挫するだけであればいいですが、
「転んでもタダでは起きない」
外資系証券会社のことですから、取締役会が賛同表明せずにTOBが失敗した場合、猪田さんが成功報酬相当額の違約金を払わされることもあり得ます。
証券会社との契約をよく精査するとともに、取締役会が裏切らないように十分な組織固めをし、また、TOB実務担当者の人選もよく見直すべきでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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