00153_企業法務ケーススタディ(No.0108):会社の定款を紛失してしまった!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
カミナリ製菓株式会社 代表取締役会長 武右 貴樹(ぶう たかき、77歳)

相談内容: 
先生、ウチの会社って、もともと、兄貴の故・長介と一緒に立ち上げ、浅草寺のそばで細々とアラレやせんべいを作ってきた小さなお菓子屋だったんです。
でも、ここ数年、
「カミナリ様せんべい」
っていう商品が大ヒットしまして、売り上げもうなぎ上りで、銀行もたくさんお金を貸してくれるし、よくわからない横文字のファンドって連中もどんどん出資してくれるし、女房も機嫌がいいし、いいことばっかり続いているんです。
そこで、創業50周年を記念して、わがカミナリ製菓株式会社も、3年後の株式公開を目指して頑張っていこう、ってことになったんです。
で、さっそく、ウチの仲本税理士に紹介してもらった支村証券会社の人や一緒に付いてきたよくわかんないコンサルタントの方にお願いして、株式公開に向けた準備は始めたのですが、そしたら、いきなり蹴つまずいてしまいました。
というのも、ウチの会社の定款が見当たらないんです。
もともと、先代だった兄貴の長介自身、だらしのない人間で、会社の書類なんて全然整理していなかったから、いくら探しても定款がないんですよ。
これには、コンサルタントや証券会社の人もあきれ果てて、
「こんなに内部統制がずさんで、書類の管理もできないような会社じゃ、株式公開なんて絶対無理です。いちから出直してきてください」
っていうんですよ。
確かに、会社の憲法っていわれるくらいの定款ですから大事なのは分かりますけど、なくしちゃったら最後、二度と株式公開できないんじゃ、死んだ兄貴にも申し訳ないです。
何とかしてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社法施行により重要性が高められた会社の憲法
株式公開企業や資本金5億円以上の大企業ならまだしも、これまで、多くの中小企業にとってみれば、会社の定款の管理をしたり、内容の確認をしたりするといった必要性はなかったかもしれません。
しかしながら、2017年に会社法が施行され、所定の手続を経て定款に定めることで利用できる新しい制度等が増えたこともあって、昨今、その重要性が再認識されております(定款自治の拡大)。
例えば、株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経て
「取締役会を設置しない」
旨を定款に記載することで、それまで義務付けられていた取締役会を設置しなくてもよくなりましたし、また、株主総会の特別決議を経て
「役員の会社に対する損害賠償責任の範囲を、報酬の4倍以内とする」
といった内容の責任制限規定を定款に記載することで、株主代表訴訟が提起された場合の役員の責任の範囲を限定することもできるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:紛失の場合の手続き
もっとも、このような会社法上の便利な制度等を利用するためには、そもそも定款がなければ始まりません。
しかしながら、中小企業の場合、さまざまな理由で定款自体を紛失してしまっているケースが少なからず見受けられます。
定款を紛失した場合、まず、会社設立後、5年以内であれば、法務局に会社の設立登記申請書類一式と定款の写しが保存されています(商業登記規則34条)ので、法務局で閲覧することができます。
次に、会社設立後、20年以内であれば、会社設立時に定款認証手続きを行った公証役場に定款が保存されています(公証人法施行規則27条)ので、当該公証役場で定款謄本の交付を受けることができます。
もっとも、会社の文書管理は内部統制の前提ともいうべき基本課題であり、定款のような重要な文書すら紛失してしまう会社については文書管理体制を徹底的に直しておく必要があります。
経営トップが
「文書管理の重要性」
すなわち
「文書の保管・運用コストを掛けても解決すべき課題である」
ということを認識した上で、文書を種類ごとに選別し、重要度合いごとに適切な保管方法を選択するなどして立体的な管理方法を確立する必要があります。

モデル助言: 
カミナリ製菓株式会社さんの場合、創業50周年ということですので、公証役場で定款を保管する期間が切れてしまっています。
会社設立後、20年以上が経過してしまっている場合は、先ほど申し上げたような方法が使えず、少しやっかいです。
御社のようなどうしようもない場合、法務局で会社設立後に変更されたすべての登記内容も含めた登記簿謄本(登記事項証明書)を発行してもらい、設立時の株主総会議事録がある場合には、これらを参考に定款を復元する作業を行うことになります。
また、設立時の株主総会議事録すらない場合には、まず、登記事項証明書を参考に定款を再製し、株主総会の特別決議をもって、当該再製した定款の承認を受けるという形で定款扱いするという裏技を使うことになりますね。
定款すら紛失してしまっている御社のことですから、どうせ、株主総会議事録なんかもろくに作成していないでしょうし、まずは、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を確認するところからやってみましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです