00155_企業法務ケーススタディ(No.0110):就業規則をイジリたい!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
真砂(マサゴ)デトックス研究所株式会社 社長 真砂 豪男(まさご たけお、38歳)

相談内容: 
先生~、聞いてよ~。
私の会社、こういっちゃなんだけどなかなか順調じゃない!?
そうそう、「真砂(マサゴ)デトックス」、私が開発した、体から脂肪以外の毒素を何でも排出しちゃう、このミラクルな健康食品があれば、私のような美しい肌が得られちゃうのよ。
ま、肌さえ綺麗なら体型なんて二の次っていう真実にみんなようやく気がつきつつあるのね。
とはいえ、ウチの営業使えなくて。
「真砂デトックス」が売れているのも、社長である私一人の営業の成果なのよ。
私が、大手ドラッグストア社長連中に直談判し、お店の棚の一番いいところを使わせてもらえるよう、この押しの強い体型を生かして、強引に丸め込むからバカ売れするわけ。
でね、ウチの会社の営業連中って、薬問屋をリストラされた年寄りの寄せ集めで、御託ばっか並べてロクに使えやしない。
なんとかあいつらの人件費抑えられないかな~と思って、新宿2丁目で知り合った徳光万九郎ってすご腕人事コンサルタントに相談したら、
「55歳以上の給料を一律半分に下げてやればいいのよ。
就業規則いじっちゃえばカンタンよ」
なんて言うわけ。
実際、ロクに仕事しちゃいない連中だし、最悪、出て行ってもらうなら、それはそれで、2丁目でブラブラしている若くてピチピチしている子をリクルートして、いくらでも人員補充できるわけだし、早いとこ、就業規則いじっちゃいたいわけ。
できるわよね!
答えてちょうだい!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:就業規則とは
企業における労働契約は、使用者である会社と従業員間の個別の雇用契約が集合しているものです。
労働契約も契約ですから、本来は、当事者の意思の合致に基づいて、従業員ごとに労働条件等が異なる労働契約が存在することになります。
しかし、使用者たる企業には、数多くの従業員が存在するために、契約内容である労働条件について、画一的に統一して定めたいという要求があります。
このような要請に応えるのが就業規則です。
労働契約法7条は
「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」
と定め、労働者の個別の同意を得なくとも、就業規則を定めることで、多数の従業員に対して、一挙に画一的な労働条件の内容を設定してしまえることになっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:就業規則の変更による一方的な労働条件の変更
したがって、企業は、就業規則を改定することで、従業員に対して一挙に労働条件を変更してしまうことができます。
そして、変更後の労働条件が従前の労働条件よりも労働者にとって不利益なものとなることを、
「不利益変更」
と言いますが、このような不利益変更を、就業規則の変更によって行うことも、一般的に可能とされています。
それでは、労働者にいかに不利な条件に変更する就業規則であっても、常に有効なのでしょうか。
この点に関し、最高裁は秋北バス事件において、
「新たな就業規則の変更によって、既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課すことは原則許されない」
が、
「合理的な内容である限り」
許容されるものと判断しました。
すなわち、就業規則の変更による不利益変更に関しては、最高裁のいう
「合理的な労働条件」
を満たすことを条件として、個別の労働者から同意を得ることなく、賃金の減額等をすることができるというわけです。

モデル助言: 
就業規則の変更によって、高齢者に対する賃金のみの減額を検討する場合、その変更内容の
「合理性」
が厳しく問われるということをまずは理解していただかなくてはなりません。
この点を全く気にしていないすご腕人事コンサルタント徳光万九郎はヤブといわざるを得ないですね。
この
「合理性」
についてですが、最高裁は、第四銀行事件において要件を具体化しています。
すなわち、労働者の被る不利益の程度、使用者側の必要性の内容・程度、代償措置等を総合的に考慮して、合理的な就業規則の変更といえるかどうかを判断すべきとされています(労働契約法10条参照)。
今回は、
「55歳以上の給料を一律半分」
などと労働者に対して大きな不利益を課すものです。
そうしますと、たとえ定年の年齢引き上げ等といった雇用者に対する代償措置を採ったとしても
「合理的」
と判断されることは難しいでしょうね。
というより、これは、あまりに乱暴な措置で、就業規則による不利益変更が許されない典型例ですよ。
どうしても減額をしたいというのであれば、能力給制度を採用し、適切な能力検査の上で、使えないヤツの給与を下げるとか、
「合理的」
な条件と運用をすべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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