00157_企業法務ケーススタディ(No.0112):会社に売りつけられた商品をクーリングオフせよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
市川メンテナンス株式会社 代表取締役 市川 蛇男(いちかわ へびお、33歳)

相談内容: 
自動車の販売から修理までをするわが社は、私が継いだ後、規模を拡大中です。
ただ、拡大がちょっと早すぎて、現場に私の指導の目が届きにくいのですよ。
先日も、出入り業者を装った怪しい消火器業者が、
「あざーっす!
御社の消火器に充填してある薬剤の定期交換時期が参りましたー!」
とかいって、ウチにあった消火器を20本ばかり、持っていったんです。
その時、中途採用した総務課長が、確認もしないで、薬剤の交換の契約書にサインまでしちゃった。
しかも、この契約代金ですが、普段使ってる出入業者の倍なんですよ。
こないだその業者が納品に来たんで
「訪問販売なんだから、クーリングオフで解除してやれ」
って気がつき、思いっきりにらみを利かせて、
「知らざあ言って聞かせやしょうッ クーリングオフだぁーッ」
とぶっこいてやったんですよ。
そしたら、消火器業者の野郎、妙に知恵の回る奴で、
「バカいってんじゃねえよ。
クーリングオフなんざあ、か弱い消費者を保護するためのもんなんだよ。
企業に適用されるわけねえだろ」
とか言い返されました。
私も、ものすごい剣幕で正論をいわれたもので、土下座をさせられる始末です。
会社はプロの商売人とみなされ、消費者としての保護を受けられない、ってのは一見理屈が通っていますが、ちょっと釈然としません。
何とか、言い返せないものでしょうかねえ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「消費者」として保護される者
私的自治原則のもとでは、当事者間でどのような契約を締結しても自由なのが原則ですし、当事者は、自分たちの自由意思で締結した以上、その契約に拘束されます。
したがって、一旦契約をした以上、当事者の一方が
「やっぱり、あの契約はナシにするね」
などと、一方的に契約を破棄することは許されないのが大原則です(契約の拘束力)。
しかし、この大原則に例外がないと、情報量や交渉力に勝る者が、劣る者を食い物とする構図が是正されることなく放置されることになるため、消費者を保護するさまざまな法律が制定されています。
これらの法律は、
「情報量や交渉力に劣る者を保護する」
ことを目的としているため、保護される客体としては、
「個人」
が予定されているのが通例であり、
「個人」
であっても、
「営業」
のために契約をしているのであれば、情報量や交渉力も人並み以上にあるだろうとのことで、保護の対象からは外れているのが通例です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特定商取引法の有効射程
ところで、特定商取引に関する法律(特商法)は、訪問販売を規制しており、クーリングオフができる旨記載した書面を受領した日から起算して8日以内であれば、一方的に契約を解除(クーリングオフ)できると定めています。
とはいえ、特商法26条1項1号は、
「営業のために若しくは営業として」
締結した契約については、そもそも訪問販売の規制が及ばず、クーリングオフはできないと定めています。
本件では、個人ではなく法律上
「商人」
とみなされる株式会社が当事者であり、商人の行為は商行為とされることから、今回の契約は
「営業のために若しくは営業として」
締結されたものとも言えそうで、クーリングオフは無理となりそうです。
ところが、大阪高裁平成15年7月30日判決は、本件と同様の事案につき、
「(特商法26条1項1号は、)商行為に該当する販売または役務の提供であっても、申し込みをした者、購入者若しくは役務の提供を受ける者にとって、営業のために若しくは営業として締結するものでない販売又は役務の提供は、除外事由としない趣旨である」
「各種自動車の販売、修理及びそれに付随するサービス等を業とする会社であって、消火器を営業の対象とする会社ではないから、消火器薬剤充填整備等の実施契約が営業のため若しくは営業として締結されたということはできない」
と述べて、消火器薬剤の交換を訪問販売で契約してしまった会社がクーリングオフをすることを認めました。

モデル助言: 
大阪高裁は、
「自動車を売ってる会社は、消火器の売買の営業をしているわけではないから、消火器については詳しくない。
消火器の分野では知識と交渉力において消火器屋にはかなわないから、特商法で保護してやるべきだ」
というロジックを用いて、粋な解決をしてくれたわけです。
今回のケースでは、相手方は、特商法で求められている、クーリングオフができる旨明記された書面の交付もしていないようですから、大阪高裁のロジックを活用すれば、時間制限である
「8日間」
のカウントダウンもされておらず、購入時から何日たとうと、クーリングオフが可能といえますね。
早速、内容証明郵便を出しましょう。
ま、これを攻守逆に見てみると、御社も飛び込み営業をなさっているようですので、今後要注意ですね。
企業間の商取引にクーリングオフが適用されるなんて思ってもみないでしょうから、いきなりクーリングオフとかいわれてもピンとこないかもしれませんが、過激な売り込みについてはご注意ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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