00176_企業法務ケーススタディ(No.0131):暴対法の中止命令を活用せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
八ッ津毛(ヤッツケ)建設株式会社 専務取締役 正狩 雅雄(まさかり まさお、59歳)

相談内容: 
いやぁ~、先生、まったくもって参ってしまいましたよ。
この前、中学校の時の同窓会に参加した時、あまり親しくなかった梅宮っていう奴と
「オレも土建屋だ。
仲良くしようぜ」
って話になって、2次会から意気投合しました。
その後も、すっかり仲良くなり、私の知らないいろんなところに連れて行ってもらって、あれやこれやですっかり世話になってしまいました。
そしたら、この間、いきなり、
「マサちゃんとこの会社、今度、市から橋梁修復工事を請け負ったみたいじゃない。
ウチの下請連中を使ってくれねえかい」
なんて持ち掛けられたんですよ。
「下請業者はもう全部決まっちゃってるし、そのあたりの差配は全部親父がやっているから、ちょっと無理なんだよ」
っていってやんわりとお断りしたら、梅宮の奴、いきなり態度を変えて
「あれだけ世話させといて、そりゃないだろ。
そこを曲げて何とかしろ!」
と怒鳴り始めたんです。
そして、
「極道組」
って書かれた名刺を差し出しながら、
「いやね、実は、オレ、ここの組のまあ、準会員みたいなもんなわけさ。
てゆうか、組からもいろいろ世話受けててさ。
マサちゃんのところも、円満に商売やりてえだろ。
ちょっと協力してくれよ」
って絡みつくように話し掛け、それでも断ると、
「ウチの組織分かっとんのか!」
といってすごむんですよ。
それで、
「何とかしてみるよ」
といってその場は取り繕って帰ってきたんですけど。
「極道組」
はここらでも有名な暴力団で、要求を無視した時の報復も怖いし、先生、どうしたらいいですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:反社会的勢力への基本対応
暴力団員などから不当な要求を受けたり、彼らから嫌がらせや生命・身体・財産などに対する危険を伴う言動を受けたりした場合の基本対応は、弁護士や警察に相談し、刑事告訴や民事上の手続(面談禁止を求める仮処分手続等)を速やかに行うことです。
暴力団サイドも、ビジネス(専門用語で「シノギ」等といいます)で動いているわけであり、ビジネスである以上、
「最小限の犠牲で、最大限の成果を得る」
という損得計算が稼働の前提となります。
警察や弁護士が動き出し、
「告訴だ」
「裁判だ」
となってくると、見込める成果に比べて犠牲があまりに大き過ぎ、ビジネスとしての採算性が破綻し、暴力団サイドとしても手を引かざるを得なくなるのです。
このように、毅然とした対応を整然と行うことこそが、解決のための早道なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:暴力団対策法上の中止命令
ところで、暴力団への対抗策としては、伝統的な方法である刑事告訴や民事手続以外に、暴力団対策法(以下、「暴対法」)に基づく措置も検討すべきです。
暴対法は、暴力団員などが市民生活に不当に介入する行為を
「暴力的要求行為」
として類型化し、これらの行為が行われた場合、警察署長に対して当該行為を禁止する命令(中止命令)を発する権限を付与しています。
そして、中止命令を申し立てる際、暴力的要求行為を行っている本人のみならず、当該暴力団員が所属する組織の代表者等も中止命令の対象者とすることができる、という点が重要なポイントになります。
すなわち、組織のトップに中止命令が発令された場合、
「暴力的要求行為」
を行っている者にとっては、
「目上の者には絶対に迷惑をかけられない」
という状況となるため、
「暴力的要求行為」
を萎縮させる効果を与えることができるのです(なお、2008年暴対法改正で、暴力団員による一定の不法行為に関し、暴力団の代表者に無過失の責任が課されるようになっています)。
以上のとおり、暴対法上の中止命令には、
「組織内の上下関係が効果的に働き、事案を早期かつ劇的に解決することができる」
という巧妙なメカニズムが内包されているのです。

モデル助言: 
まずは、所轄の警察署に相談して、
「極道組」
が、暴力団対策法上の
「指定暴力団」
として指定されているか、または、
「極道組」
の上位組織が
「指定暴力団」
として指定されているかと、梅宮がこれらの暴力団員かどうかを調べてもらいましょう。
その結果、
「指定暴力団」
の暴力団員であることが判明した場合、まずは、
「そのような不当な下請参入要求は、暴力団対策法上の暴力的要求行為に該当するので、所轄警察署長に中止命令発令を申し立てます。
その際、極道組のトップも中止命令の名宛人として加えさせていただきます」
と明確に伝えてみましょう。
恐らく、これでほぼ退散すると思いますが、それでも収まらないようであれば、所要の手続を粛々と取っていくことになります。
たまに、暴力団と関係のない者が暴力団員を騙って不当な要求を行うケースもあります。
本件の梅宮もエセ暴力団である可能性もありますので、
「貴殿は、極道組の組員ということですが、中止命令発令の前に、念のため、『貴殿が構成員であるか否か』、また、『貴殿が構成員であるとして、組として貴殿の行為を認めているのか』ということを組に対して照会してみますが、よろしいな」
といってみましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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