00177_企業法務ケーススタディ(No.0132):粉飾決算の罪と罰

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ビッグ・システム株式会社 代表取締役社長 中山 栄太(なかやま えいた、28歳)

相談内容: 
ウチは、5年前、新興市場に上場を果たしましたが、実は、ココだけのハナシ、今期、本当は数億円規模の赤字だったんです。
メーンバンクからは、
「黒字であり続けないと、新規融資はストップです。
既存の融資についても厳しい対応をしなければなりません」
っていわれてましてね。
これじゃ、今進めている一攫千金のプロジェクトがおじゃんになってしまうんです。
これが軌道に乗ったら、銀行だけでなく株主の皆さんにもジャンジャン還元してあげられるんですよ。
それで、IT企業仲間の末田隆平ってダチと助け合って循環取引をやったりしてイロを付けて、ちょっとだけ黒字になるようにしちゃいました。
そしたら、
「不況の中、着実に黒字を上げる優良企業」
ってゆう評価をもらっちゃって、融資も安泰。
新規の資本調達までうまくいきました。
それで喜んだのも束の間・・・一昨日、末田から電話があって、
「証券取引等監視委員会に、オマエとの循環取引のことを聞かれて、ゲロっちゃった」
って、いうんです。
さっき、僕にも証券取引等監視委員会から電話があって、
「末田さんの件でお話をうかがいたい」
って、いうんですよ。
まあ、ぶっちゃけ覚悟はしてますよ。
といっても、いってみりゃ、私が個人のカネを突っ込んで利益付けてやってもよかった程度の額で、たいしたことのない話ですよ。
ま、謝ったら済んじゃいますよね。
で、先生、どうやって謝ったらいいっすか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:金融商品取引法の目的
数十年前までは、我が国の産業金融は、銀行の提供する間接金融が中心でした。
資本市場は
「一攫千金を夢見る相場師たちの鉄火場」
としてみられており、証券会社の地位や役割が低かったこともあり、直接金融、すなわち資本市場を通じた企業の金融システムはあまり重要視されていませんでした。
しかしながら、現代の資本市場は、
「限りある金融資源を効率的に配分するための重要な社会インフラ」
に様変わりしています。
このような観点から、証券取引法、さらにこれを引き継いだ金融商品取引法(以下、金商法)において、法規制は年々強化され、社会インフラにふさわしい厳しい運用がされるようになっています。
金商法の規制の大きな柱のひとつが、資本市場(株式・社債市場等)への正しい情報提供であり、
「資本市場を用いて金融を行う企業の価値が、必要十分な正しい情報に基づいて評価される環境」
をつくるため、さまざまな規制や罰則が設けられています。
金商法は、上場企業、すなわち
「資本市場という社会インフラを利用して多数の投資家らから資金を調達する株式会社」
に対しては、有価証券報告書等の継続開示書類の提出を義務付けるとともに、その内容の正確性を担保するために、不実の記載に関する民事上の責任(投資家が蒙った損害に対する賠償責任)・行政上の責任(課徴金)のみならず、重要な事項につき虚偽の記載をした者については、
「10年以下の懲役、1千万円以下の罰金、またはこれらの両方」
の刑事罰を定めています(同法197条1項1号)。
「法定刑の上限が懲役10年」
というと、窃盗や詐欺と同等ということですから、犯罪の相場としては、相当重い部類に入ります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:金商法違反に対する刑罰の状況
金商法違反となる粉飾決算に対する刑事罰については、非常に厳しい運用がなされており、報道を見ても、
「執行猶予が付かず、実刑となり、そのまま刑務所に収監されることになった事案」
が複数確認されます。
2011年4月には、粉飾決算したライブドア社の元社長に対する懲役2年6月の実刑判決が確定していますし、11年9月、循環取引によって売上高や経常利益を水増しして虚偽の有価証券報告書を提出したシステム開発会社の元会長に対する横浜地裁の裁判でも、懲役3年の実刑判決が下されています。
上場企業の経営者の中には
「ちょっとウソついたくらいだから、大目にみてくれよ」
などという考えをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、
「資本市場の金融インフラとしての重要性に鑑みれば、投資家の判断を損ね、市場への信頼を傷つけるような不心得者に対しては、厳しい処罰をもって臨む」
というのが今や常識になっていますので、注意が必要です。

モデル助言: 
上場企業として情報開示する局面においては、
「ウソも方便」
などという諺は忘れてください。
要するに、司法当局、行政当局は、
「資本市場は、上水道や道路や鉄道と同じく、社会運営上、必須の公共インフラである」
ととらえており、
「“資本市場において上場企業が粉飾決算や虚偽の報告を行うこと”は、“上水道に毒を流す行為”や“道路を破壊する行為”や“線路に置き石する行為”と同じ、一種のテロ行為であり、厳罰を以て臨むべきである」
という考え方を有しています。
事態を甘く見ていると、本当にムショ暮らしをする羽目になりますよ。
とにかく、決算修正と速やかな開示を行い、
「第三者委員会を立ち上げて、その調査報告書を受けて、中山さんが引責辞任する」
くらいのシナリオを描いて、うまく事態を収拾することを考えるべきでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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