00178_企業法務ケーススタディ(No.0133):定期賃貸借の罠

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
西塚食品株式会社 代表取締役 西塚 英彦(にしづか ひでひこ、49歳)

相談内容: 
先生、ウチの会社、今度、ファストフード業界に進出するんです。
え? 何? この不況下で外食なんて大丈夫かって?
それは、ご心配なく。
安い、大盛り、メタボ、を合言葉に、大盛りのご飯のどんぶりにカレーとトンカツと牛すきをのっけた
「メガメタボ丼」
ってのを主力にしたファストフード店をチェーン展開していくんですよ。
でも、なかなかいい物件が見つからなくって困っていたんですけど、友人の紹介でM&Aで買った
「メグミの大地」
っていう八百屋チェーンが都内に10店舗の店舗を持っているんで、そのうちの一部の店舗をリニューアルしてオープンすることにしたんです。
その名も
「命知らずのメタボ達!」
もともと、八百屋だったから、キッチンを作ったりして、結構、造作費用がかかったんですけど、まぁ、うまいもののためなら、背に腹は代えられません。
ところで、この前、店を改装する際、店のオーナーに挨拶に行ったら
「この店は定期賃貸借だから、あと1年で期間満了だよ。
ま、これまでメモ書きみたいな覚書でやってたけど、この機会に契約書もちゃんと作っておくから、これにサインしておいて」
なんつって、なんか契約書みたいなの、渡されました。
でも、これって、期間がきたら更新できるんですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:借地借家法における契約期間更新のルール
賃貸借契約とは、当事者の一方が他方に物の使用等をさせ、これに対し相手方は使用等の対価を支払うことを約束する内容の契約です。
民法は、賃貸借契約の
「期間」
について、
「賃貸借の存続期間は、20年を超えることができない。
契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、20年とする(604条)」
と定めるのみで、あとは、当事者間で自由に決めてよいという建前をとっております(私的自治の原則)。
ところで、期間が満了する際、それまでと同一条件で、または若干の変更を加えた上で、賃貸借契約を継続させることを
「更新」
といいますが、この点についても民法は、更新が可能かどうかや、その際の条件等については、原則として当事者間の合意に委ねております。
とはいいながら、ふつう、物を貸す側(大家)と借りる側(店子等)とでは、前者の立場が圧倒的に強いわけで、貸す側としてみれば、もっと良い条件で借りてくれる候補者がいれば、借りる側が賃借物の造作等にどんなに費用をかけていたとしても、
「次に入る人が決まっているんで、契約が終了したら、とっとと出ていってくれ。
あん? 更新? そんなの絶対にだめ」
となってしまうことがままあります。
そこで、圧倒的に弱い立場の借りる側を保護すべく、借地借家法は、
「貸す側は、期間満了の6か月前までに、更新を拒絶する意思表示をしなければ、賃貸借契約は同一条件で更新されたとみなす(「みなす」とは、更新の効果を争うことは一切できないという意味です)」
「さらには、借りる側にカネをつんだり、どうしても自分で使わなければならない等、更新拒絶の正当事由の存在を証明しない限り、更新の拒絶はできない」
と定め、両者の力関係の調整を図っています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:定期賃貸借
ところが、前記の借地借家法の規定だと、何だかいつまでも更新が繰り返されてしまいそうですし、実際に、裁判例も、借りる側に有利になるよう、
「正当事由の存在」
についてとても厳しく判断しており、これでは、逆に不動産オーナーにとってあまりに不当な結果となりますし、これでは、優良不動産の有効活用ができなくなってしまいます。
そこで、借地借家法において、“例外の例外”ともいうべき
「定期賃貸借」制度
が設けられるようになりました。
これは、賃貸借契約期間を一定期間とする契約で、一定の要件を充足した定期借家契約は、どんな理由があっても更新は許されない、というものなのです。

モデル助言: 
オーナー(賃貸人)との間の契約が
「定期賃貸借」契約
であれば、どんなに高額の費用を投資して店舗を改装していたとしても、期間が満了すれば、契約は終了し更新はできません。
どんなに泣きついたって、
「定期賃貸借」契約
の場合の契約期間は絶対です。
したがって、せっかくオープンした
「命知らずのメタボ達!」
も、有無をいわさず閉店しなければなりませんよ。
もっとも、
「定期賃貸借」契約
は、強行的な内容になっていることとのバランス上、契約の成立が認められるためには、いくつかの条件があります。
ひとつは、
「必ず、契約の内容を書面にすること」
もうひとつは、
「この賃貸借契約は更新できません、といった文書を交付して説明すること」です。
西塚さんの場合、どうやら、契約書も上記の説明文書もないようなので、店のオーナーが勝手に、
「定期賃貸借契約だ!」
といっているだけの可能性が大きいです。
状況次第では、そもそも
「定期賃貸借」契約
は成立せず、更新が認められそうですので、大切なお店も継続できそうですね。
とはいえ、契約の内容が
「定期賃貸借」
か否かは、投資回収期間を考える上で大きな要因になりますので、これを機にきっちりと勉強しておきましょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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