00194_企業法務ケーススタディ(No.0149):ABLを活用して、融資を引っ張れ!

相談者プロフィール:
ヘルメス電工株式会社 代表取締役 谷中ミキ(たになか みき、36歳)

相談内容: 
先生、ご無沙汰しております。
当社は、マイナスイオン効果を発する特殊な小型装置を開発しているのですが、最近、この技術を利用して
「サラサラ黒髪ヘアー」
をキープできるドライヤーを商品化するための研究・開発を進めていて、社長である私自身がCMに出演したりして先行して営業活動も始めていたのです。
その成果もあって、やっと試作品が完成して、あとは量産品の製造を開始するだけというところまできました。
それに、お陰さまで、家電量販店から捌き切れないくらい多くの発注もいただくことができたのです。
でも、ちょっと困ったことがありまして、実は、新商品を製造するには、どうしてもレアアースが必要になるのですが、とても高価なものですので、なかなか必要な量を購入することができません。
それで、この前、ノンバンクを経営している叔父に借入の相談に行ったのですが、
「確かに、兄貴には世話にはなったが、ビジネスは別だ。
あんたの会社は担保となるような不動産も持っていないから無理だな。
まぁ、商品の売掛債権ごと譲渡してくれるなら話は別ですけどね」
なんて、鼻であしらわれてしまいました。
でも、取引先に債権譲渡が知られたら、それこそ信用不安が広がってしまいますし、それに、苦労して営業開拓した大手量販店から新規に発注書をもらったばかりで、まだ売掛債権なんて発生していませんわ。
先生、どうしたらいいのでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債権譲渡担保とは
まず、
「譲渡担保」
とは、担保のために、
「目的物」
自体を債権者に譲渡するという制度で、動産などではよく知られております。
次に、
「債権譲渡担保」
とは、債務者がその取引先(第三債務者といいます)に対して持っている売掛債権などを
「目的物」
として譲渡することで、担保権を設定することをいいます。
このような、企業の事業活動の一部である売掛金や在庫などに担保を設定して金融することを、最近ではアセットバックトローン(Asset backed loan、ABLと略されます)といい、不動産資産などをもたない企業や、創業したばかりの企業などに重宝されております。
ところで、取引先に対する売掛債権を譲渡して担保とする場合、複数の取引先に対する売掛債権をまとめて担保としたり、将来、発生する売掛債権を担保としたりすることが多いのですが、債権を譲渡する際、第三債務者に対し債権譲渡したことを対抗するためには(新しい債権者が誰であるかを知らしめるためには)、民法の原則では
「債権を譲渡する者」
が取引先である第三債務者に対し
「債権を譲渡した」
旨の通知を行わなければなりません(債権譲渡の「対抗要件」。民法467条)。
それゆえ、取引先に
「売掛債権を譲渡したこと」
がバレてしまうと、
「売掛債権を借金のカタに出したりしてやがるんだ。この会社、よほどカネに困っているんだな」
と思われ、信用不安が広がってしまう恐れがあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:債権譲渡担保等に関する特例法
設例のように、不動産などの担保の目的物となる資産はないし、かといって、信用不安を引き起こす可能性のある
「売掛債権の譲渡」
もなかなか難しい、といった企業のために、動産・債権譲渡特例法が制定されました。
この法律によれば、法人(個人事業主は不可)が取引先などに対して有する金銭債権などについて、
1 実際の債務者が確定していなくても、また、将来、発生する債権であっても、担保として提供可能であり、
2 民法で要求される「債権譲渡の手続」を踏まなくても、法務局に「登記」を行うことで、債権譲渡の「対抗要件」を具備することができる、
ということを可能にしました。
すなわち、
「将来発生する売掛債権」
といったあいまいな債権であっても、これを質草にカネを引っ張ることができ、かつ、民法の債権譲渡手続きをすっ飛ばすことができるので、取引先に黙ったまま、金融担保として利用できることが可能となったのです。

モデル助言:
技術と夢はあるけど担保物となりそうな不動産等はもっていない、唯一の資産は、将来、発生する
「取引先への売掛債権」
だけど、現実にはまだ発生もしていないし、もちろん、債権譲渡の手続をすれば取引先に信用不安が広がってしまう、といった状況の企業にとってみれば、ABLは検討に値する金融担保スキームですね。
なお、債権譲渡担保の登記制度ですが、通常の登記のように、法務局に対し登記申請書や添付資料を提出するだけでなく、法務省指定のコンピュータープログラムを利用して、当事者や債権の情報等のデータを入力したファイルを作成する必要があります。
対応できる法務局は、現在、東京法務局民事行政部債権登録課に限られています。
東京法務局といっても、九段じゃないですよ。
中野出張所にありますからね。
ま、当事務所がスキーム提案しますが、当事務所が債権者の代理人をするわけにも参りません。
実際の登記は、フットワークの軽い知り合いの司法書士さんを紹介しますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです