00195_企業法務ケーススタディ(No.0150):サブリースの甘言

相談者プロフィール:
レッドマネジメント株式会社 代表取締役 牛田 吉憲(うしだ よしのり、46歳)

相談内容: 
先生、お久しぶりですっ!
今日はね、不動産の相談で参りましたよ。
俺も余裕できて一戸建て買って、一昨年には世田谷に別の結構な土地まで買わせていただきました。
その際には、先生にもお世話になって・・・。
勢いで土地買ったはいいけどさ、今になって活用法考えてないことに気づいたんっすよ。
そんな時、ゴリラ不動産なんてところから、
「良い土地をお持ちですね!
駅近だし、商業施設を造っていただければ、われわれがそれを一括で借り上げ、賃借人との折衝も全部行わさせていただきます。
われわれとの契約では賃料の自動増額特約入れていただいても構いませんし、損はさせません!」
って話が来ましてね。
そいつによれば、確かにビル建てるのにお金は必要だけど、全部借り入れで賄えるし、3年ごとに10%賃料上がるし、不動産屋は15年間解約せずに借り続けてくれるっていうし、その15年で間違いなく借金返済に十分で後はお金が入ってくるだけだし、全くもって問題ないと思うんだよね。
これは身銭切って
「位置についてよーいドミニカ!」
かなぁって思うんだけど、俺、意外に保守的だからさ、リスクの確認に来たってわけ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:サブリースとは
本設例で牛田氏がゴリラ不動産から提案を受けているのは、いわゆる
「サブリース」方式
と呼ばれるものです。
法的には要するに単なる
「転貸」(日常用語にすれば「又貸し」)
なのですが、
「所有権者(オーナー)が業者に建物全体を賃貸し(賃貸①)、その業者が、建物の運営・管理を一気に引受けた上で、さらに、各区画を賃借人に又貸しする(賃貸②)」
という2段階の賃貸借契約を想定して行われる1つの事業です。
オーナーとしては、余っている土地の合理的な活用方法を業者に任せられるし、各区画を実際に使用する賃借人との個別の対応に追われなくてもいいし、たとえ空き室があっても業者が賃料保証してくれているようなものだし、ということでメリットばかりのようにも思えます。
ただし、管理・運営を全部業者に任せる以上、どのような者が区画を利用するのかの選択権はありませんし、オーナーが建設すべきビルについても、細かな設計・仕様などすべてに、業者の意思が反映されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:賃料減額請求の可能性
一番の問題は、
「一定額の賃料を長年にわたって確定的にもらい続ける保証がない」
ということです。
本件では、不動産屋から、
「定期的に賃料を自動で増額させていただきますから」
などという甘言が用いられ、あたかも長期の賃料保証がなされているようにも思えます。
しかし、たとえ、このような定めがあったとしても、一定期間後に賃料が減額される可能性を否定することはできません。
すなわち、賃料については、不動産の価値が周辺環境、景気、不動産市況等によって影響されやすいものであることから、借地借家法により、借り主には賃料減額請求なる権利が認められています。
借地借家法というと、
「“個人”の借り主を保護する趣旨で制定されたものであり、借主が“事業者”であるときは無関係だろう」
などと即断する方もいらっしゃるかもしれませんが、事業者であっても同法の保護を受けます。
上記サブリースという仕組みからすると、
「2段階の賃貸借を包含する1つの事業性の強いプロジェクトであることから、個別に1つの賃貸借関係だけを抜き出して借地借家法を適用するのは不合理だ」
という有力な学説もかつては存在しておりました。
しかし、最高裁は、
「借主が事業者で、しかも、賃料自動増額の定めがあったとしても、同法に基づいて賃料減額請求をすることができる」
旨判示し、サブリース業者が約束を違えて賃料の減額をできる(逆にいえばオーナーは賃料収入の一部を失う)、との法理が確立したのです(最高裁2003年10月21日判決)。

モデル助言: 
危険ですね。
事業性の検討を自ら行うこともなく、不動産業者に任せっきりで
「サブリース事業がうまくいくはず」
なんて期待しているようでは。
牛田さんは、不動産業者が一定額の賃料を長年にわたって支払ってくれるなんて甘く考えているようですが、上記のように減額請求の可能性も十分あり、また、ビル建設のための大きな債務を自分で負うことも考えると、相当慎重に検討する必要があります。
もちろん、土地を寝かしておいておくだけでは、固定資産税等の負担しか生じず、何か利用法を考えなくてはいけないということも分かります。
ですが、
「土地を提供し、自らビルを建設して、事業者にこれを貸すことで利益を得る」
という行為は、
「サブリース事業に共同して参画する」
ということに他ならず、共同事業者として、真剣に経済的合理性を分析しなければなりません。
ビルだけ建設して、不動産業者が倒産してしまっては元も子もありませんから、不動産業者の体力がどうなっているのか、本件サブリース事業を遂行するにあたって、どのようなテナントからどれほどの歩率を取るのか、これからの不動産市況をどう考えているのかなど、逐一、精査すべきですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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