00197_企業法務ケーススタディ(No.0152):家主が夜逃げして、地主から出て行けといわれた!

相談者プロフィール:
forever mature 代表取締役 矢部 祐二(やべ ゆうじ、34歳)

相談内容: 
先生、この前、友人と、おしゃれな40代、50代の女性限定のアパレルブランドを立ち上げたことはお話ししましたよね。
その後、表参道の古い民家を借りて、内装にかなりのカネをかけてリノベーションして、セレブな奥様方にうけるように1階にはおしゃれなカフェなんかもつくって、ショップをオープンしたんです。
お陰さまで、ショップも大繁盛で、俺好みの年上の女性にも会えるんで、最高っすよ。
で、いいこと尽くしだと思っていたら、昨日、いきなり、土地の持ち主だっていう、欲深そうなジジィがやってきて、
「土地を貸して民家を建ておった輩が、6ヶ月以上、地代を払っとらん。
それに、行方をくらませて地代の請求もできん。
よからぬ連中からカネを借りていたという話も聞いておるし。
とにかく、土地の借主が地代を払わん以上、建物は取り壊して土地を明け渡してもらう。
お前さんにも出てってもらうからな!」
とかっていうんですよ。
俺は、民家のオーナーに毎月ちゃんと銀行引き落としで賃料支払っているのに、民家のオーナーと地主との間の地代のことなんて知らないっすよ。
でも、地主は、土地を明け渡せって息巻いているし。
このまま、ショップが取り壊されちゃうんですか?
先生、改装費用とか、全然回収できないし、そんなのヤですよ。
何とかしてください!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:土地(敷地)と建物の賃貸借関係の原則
土地(敷地)の賃貸借は、
「土地の所有者」

「土地を利用する者」
との間で締結されるものであり、また、建物賃貸借は、
「建物の所有者」

「建物を利用する者」
との間で締結されるものです。
それゆえ、
「土地を利用する者」
が、
「土地の所有者」
から土地を借りて建物を建築し、今度は
「建物の所有者」
として
「建物を利用する者」
に建物を貸した場合であっても、
「土地の所有者」

「建物を利用する者」
との間に、契約関係はありません。
なお、
「土地の所有者」
にとってみれば、
「建物を利用する者」
は、建物の利用と同時に、事実上、土地も利用しているのだから、あらかじめ
「土地の所有者」
の許可を求めてもよいような気もしますが、この点について最高裁1971年4月23日判決は、法律上、土地を利用しているのは依然として
「建物の所有者」
であるとして
「土地の所有者」
の許可は不要であるとしております。
このように、
「土地の所有者」

「建物を利用する者」
との間には、何らの契約関係も、何らの利害関係もないのが通常です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「建物の所有者」に代わって地代を支払えるか
ところで、
「土地の所有者」

「建物を利用する者」
との間には、何らの契約関係も利害関係もない以上、仮に、
「建物の所有者」

「土地の所有者」
に地代を払っていない場合であっても、“代わりに地代を支払う”根拠を欠くとも思われます。
しかしながら、実際に
「建物の所有者」
が地代を支払わなければ、そのうちに土地(敷地)の賃貸借契約を解除されてしまい、結果として、建物からの退去を強制されてしまいます。
そこで、何とか、土地(敷地)の賃貸借契約を解除されないように、“代わりに地代を支払う”ことができるかが問題となります。
この点、最高裁86年7月1日判決は、
「建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあるから、敷地の地代を支払い、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有する」
として、
「建物を利用する者」
による地代の支払いを有効としました。
この判例を適切に活用することにより、きちんと家賃を支払っている建物を利用する者としては、
「『建物の所有者が土地の所有者に地代を払わない』等という、自分ではどうにもできない理由で、底地のオーナーから無理やり建物から追い出される」
という事態を防止できる、というわけです。

モデル助言: 
矢部さんとしても、民家のオーナーが地代を支払わないと、多額のリノベーション費用をかけて立ち上げたアパレルショップから、突然、立退きを余儀なくされてしまうわけですから、民家のオーナーに代わって地代を払う
「利害関係」
があるわけです。
したがって、まずは、地主さんに事情を説明して、民家のオーナーに代わって滞納している地代を支払うことを提案してみてください。
もっとも、地主さんと民家のオーナーとの間で話がこじれてしまっている場合には、地代を受け取ってくれないかもしれません。
地主とすれば、
「行方不明になるなど面倒くさい民家のオーナーとの間で、法律上、少なくとも30年間は継続することになる借地契約」
なんて面倒くさいものはとっとと解除して、30年前に比べて相当値上がりしている土地を有効活用したい、と考えるでしょうから。
このような場合には、支払いを行う
「利害関係」
があるにも関わらず、債権者である地主が
「弁済の受領を拒むとき」
に該当する(民法494条前段)として、法務局に
「供託」
すれば済みますよね。
いずれにせよ、心配しなくて大丈夫ですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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