00215_企業法務ケーススタディ(No.0170):外国の裁判所で訴えられた!

相談者プロフィール:
株式会社タワーオブトーキョー 百合井 フランク(ゆりい ふらんく、49歳)

相談内容: 
僕さ、画材用品って洒落たものがないから、絵の具をチョコの箱に詰めたようなパッケージにして売り始めたんだよね。
そしたら、めちゃめちゃ流行っちゃって、フランスでも売ることになったんだけど、僕の会社の規模を考えると難しいから、現地にある画材道具の問屋に卸してたんだ。
そしたら、一昨日、僕の会社に、突然
「法律事務所の者だけど、あなたの会社を訴えたからよろしく」
といって、手紙みたいなもんを置いていった人がいたんだよ。
その手紙はさ、フランス語で書いてあって、さっぱり何書いてあんのかわかんないから、翻訳業者さんに日本語にしてもらったのよ。
そうしたら、
「裁判所で訴えたぞ」
って内容だっていうんだよね。
僕の会社の絵の具を本物のチョコと間違えて子どもが食べちゃって、病院に運ばれたらしいんだよね。
僕の会社が
「製造物責任」
なんてのを負うから、その子どもにお金を払う必要があって、その裁判をするからフランスまで来いってさ。
期日が来週だ、とか書いてあるんだけど、来週たまたまベルギーに行く用事があるから、ついでにフランスの裁判所にいって、
「チョコと間違うのって、あり得ないよ。
こんなの認められるわけないでしょ」
と一発文句でもいってこようかと思ってるんだけど、それでいいかな。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:裁判と強制執行
自己の権利を実現する場合、債権者が実力で権利を実現するという自力救済が原則として認められておらず、
「判決→強制執行→権利の実現」
といったプロセスで権利実現がなされるシステムが採用されています。
この手続は、司法権という国家主権が行使される場面ですので、国家間の問題をはらみます。
ここに、
「他国の司法機関が下した、他の国の法律を前提に、当該言語で書かれた判決書」
があるとしましょう。
当該判決書はその国では有効ですが、別の国においては、そんな
「よくわからない法律に基づいてくだされた、よくわからない言語で書かれた判決書」
という意味不明な紙切れがあっても強制執行を行うことはできず、無視されるだけです。
しかし、
「日本人が、外国で不正な行為をしても、日本に帰ってくれば、相手方は必ず、アウェーである日本でしか裁判は提起できない」
というのも不公平ですので、
「一定の条件が整えば、外国の裁判所による判決に基づいて、日本国内で強制執行できる」
とされています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国判決の承認・執行制度
日本では、民事訴訟法第118条の要件を充足する外国の判決であれば、特別の手続を必要とせずに
「承認」
されます(自動承認)。
つまり、外国の判決書であっても、自国の判決と同等であると
「承認」

「執行」
することができる、とされています。
民訴法118条によると
「外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
1 (略)
2 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
3 (略)
4 (略)」
と規定されています。
2について、最高裁判所は、
「(1)『敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達』とは、外国と締結した条約に定められた方法を遵守しなければならない」
とし、また、
「(2)『これを受けなかったが応訴したこと』とは、被告が防御の機会を与えられ、かつ裁判所で防御の方法をとったことを意味する」
としています(最判平10.4.28)。
その上で、香港での裁判において原告側の日本人弁護士が、日本に在住する被告に訴訟書類を直接交付した場合、
「外国と締結した条約に定められた方法を遵守していないから、(1)には当たらないが、裁判に出席して争っているので、(2)には当たる」
という判断をしています。

モデル助言: 
つまり、
「日本では認められない外国の作法で送達された訴状」
を無視して、外国で敗訴判決が出たとしても、その判決に基づいて日本で強制執行されることはないんです。
今回百合井さんの会社に来てフランス語の訴状を置いて行ったのは、法律事務所の人だったのですよね。
ということは、条約に定められた方法を遵守した送達の方法とはいえません。
放っておいて、相手が日本の裁判所でフランスの判決を承認してもらう手続の段階で、
「マトモな方法で訴状を受け取っていない。
ちゃんとした手続保障もなく、勝手な裁判をされただけで、そんなもん知らん」
といえちゃうんですよね。
ま、翻訳代をケチったり、日本法上の送達が面倒くさい、と思ったんじゃないでしょうかね。
他方、放っておけばいいのに、百合井さんがフランスの裁判所に出向いて、争ったとなると、
「防御の機会を与えられ、かつ防御の方法をとった」
ということになり、外国判決が承認されてしまう可能性が出てきます。
したがって、中途半端な反論をするくらいなら放っておいた方がよいということになります。
外国が絡んだ場合、自分の常識で判断せず、専門家の意見を聞いて慎重に行動すべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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