00217_企業法務ケーススタディ(No.0172):特許権じゃなくノウハウとして保護したい!

相談者プロフィール:
株式会社E・R・O(イー・アール・オー) 代表取締役 太久保 佳代子(たくぼ かよこ、42歳)

相談内容: 
私どもE・R・O 社は、年齢層高めの女性向けコスメ
「マンイーター」シリーズ化粧品
の製造販売をしております。
実際の製造は、下請に出してるんですけど、その際、品質の保持は大切なんで、下請業者に念入りに研修を受けさせた後に、製造させてます。
研修には、わが社が独自に作成した研修用資料が使われています。
この資料には、わが社の
「マンイーター」シリーズコスメ
の材料・用途等が記載されているのみならず、競合他社の製品の分析・比較やお客さまのニーズを分析したものが記載されており、長年の研究や市場調査の結果がすべて詰まっているので、わが社が業界で独り勝ちを誇るノウハウのすべてが書かれているといっても過言ではありません。
だからきちんと研修用資料には、
「コピー厳禁。外部への持ち出し禁止」
と書いてあります。
先日、業界内の昔からの知り合いに、
「マンイーターシリーズのコスメはやっぱりよく考えられているよね。
やっぱりよく調べているわ!」
なんていわれたんですよ。
どういうことか問い詰めると、前にうちが下請けに出していた光裏工業がうちの研修資料を業界内で勝手に開示してるっていうんですよ!
うちのノウハウをそこら中にばらまくなんて、光裏工業のやつをなんとかぎゃふんといわせてやれませんかね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許とノウハウ
近年、
「知的財産」
という概念が広まり、キャラクターやブランド名等を勝手に使用すると、差止請求や損害賠償請求をされる危険性があることをご存じの方も多いでしょう。
知的財産とは、知的財産基本法2条により
「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう」
と規定されており、キャラクターやブランド名のみならず、企業のノウハウも知的財産に含まれます。
そして、例えば、発明については、特許庁に登録することによって
「特許権」
として保護されるようになりますが、特許出願をすることによって、1年半後に自動的に発明の内容が公開されてしまいます(特許法64条1項)。
自社のノウハウを特許庁に申請しなくとも、重要なノウハウが不正に利用されてしまった場合、不正競争防止法によって差止請求や損害賠償請求をすることができます(不正競争防止法2条6項、3条、4条)。
したがって、特許権としてではなく、ノウハウとして自らの会社が開発した技術等を保護していく方が自社の利益を追求できる場合もあるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ノウハウの保護
特許庁に登録していないノウハウでも、特許権と同様にすべてが保護されるのかというと、そうではありません。
不正競争防止法によって、差止請求等ができるのは、ノウハウが一定の要件を充足する場合、これが不正競争防止法上
「営業秘密」
に該当するものとされ、同法2条6項によって
「取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為」
が不正競争とされるからです。
「営業秘密」に該当するかどうかは、
1 非公知性
2 有用性
3 秘密管理性
の3つの要件によって判断されます。
つまり
「世間に知られていない、商売に使うことのできるノウハウで、秘密としてちゃんと管理されているもの」
に限定して、これを不正競争防止法上保護しようと考えているわけです。
裁判所では、特に
「秘密管理性」
が認められるか問題になるケースが多く、
「当該情報が、客観的に秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要であり、具体的には、
(1)当該情報にアクセスできる者が制限され、
(2)アクセスした者に当該情報が営業秘密であること
が認識できるようにされていることが必要である」
とされています(東京地裁判決平成12年9月28日)。

モデル助言: 
E・R・O 社の研修用資料がノウハウとして保護されるのであれば、光裏工業に対し、当該資料の使用をやめさせ、これを勝手に利用し、公開したことによって生じたE・R・O社の損害を請求することも可能です。
当該資料は、これまで門外不出の機密であったということですから1の非公知性は問題なく、また、自社製品の材料・用途等のみならず、競合他社の製品の分析・比較やお客様のニーズを分析したものが記載されていて、企業が営業を行う上で有用な情報が満載というわけですので、2の有用性も認められる。
しかし、当該資料には
「コピー厳禁。
外部への持ち出し禁止」
と記載されていただけ、というのはひっかかりますね。
光裏工業を信用して、誓約書を提出させたり、使用後にこれを回収したりしていない、となると、なかなか厳しいかもしれませんね。
まずは光裏工業の社長と担当者を呼んで、事実を確認し、クロとわかれば、秘密保持義務云々はさておき、
「信頼関係がなくなったから、契約解除をする」
と圧力をかけて、仕入れ値を見直させましょう。
流出してしまった情報は仕方がないですから、この損害は光裏工業を生殺しにして回収し、次のプロジェクトを立ち上げましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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