00232_企業法務ケーススタディ(No.0188):海外から訴状がやってきた!!

相談者プロフィール:
株式会社HARUKA 代表取締役 遥 綾(はるか あや、28歳)

相談内容: 
先生こんにちは。 
私、目元を可愛くしたい女子のためにですね、目元関係全般の化粧品を販売する会社の社長をやっています。
それで、最近、うちの会社の化粧品開発部がですね、1年塗り続けると目元のシワが全部とれちゃうクリームを開発したんです。
すぐに
「目元シワとりクリーム、ヒアルロンちゃん」
として商品化して、売り出したら、バカみたいに売れて、テレビでも取り上げられたので、期間限定でアメリカなどの海外にもそのクリームを輸出して販売しました。
でも、海外への輸出はいろいろと面倒なので、最近は、日本国内での販売に限定しています。
ただ、最近、コンプライアンスとかいって、法律に違反すると会社のイメージがすごく下がっちゃいますよね。
なので、効果とか効能とかそういった危険な売り文句を全部削除して、取りあえず、薬事法とか日本の法令には違反しないことはちゃんと確認させました。
でも、それじゃ甘かったみたいなんです。
この間、アメリカから英語の文書が届いちゃって、どうやら昔クリームをアメリカで輸出していた頃のお客さんが
「このクリーム塗っていたら、よけいにシワが増えた」
とかいうことで、ウチの会社を訴えている訴状のようなんです。
アメリカって莫大な賠償金とか取られたりするんですよね。
私、アメリカ行かなきゃいけないんですか? それと、賠償金とかも払う準備しておいた方がいいんしょうか? 先生、怖い~~~~っ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:外国裁判所の確定判決の効力
民事訴訟法118条は、同条に規定する1号ないし4号の要件を満たす場合にのみ、外国裁判所の確定判決が効力を有すると規定しています。
そして、同条2号前段は、外国裁判所の確定判決が効力を有するための要件として、
「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く)を受けたこと」
を規定しています。
したがって、外国裁判所の確定判決は、そのまま日本でも有効となるというわけではなく、同条1号ないし4号に規定された要件を満たした場合にのみ、日本で有効となり、執行される可能性が出てくるのです。
では、
「訴訟の開始に必要な呼出し」(同条2号前段)
とは、どういったものをいうのでしょうか。
日本国内で外国の訴状を受け取る場合として想定されるのは、
1 外国の原告やその代理人から直接訴状が郵送もしくは持参されて届く場合
もしくは
2 日本の裁判所を通じて訴状が届く場合
です。
このうち、
「訴訟の開始に必要な呼出し」
があったと認められるのは、2の場合のみです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:最高裁判所の判断
香港で行われた訴訟の原告から私的に依頼された弁護士が、日本に在住する被告に訴訟書類を直接交付したケースにおいて、最高裁判決(平成10年4月28日)は、
「香港在住の当事者から私的に依頼を受けた者がわが国でした直接交付の方法による送達は、民事訴訟法118条2号所定の要件を満たさない」
と判断しました。
すなわち、最高裁判所は、
1 外国の原告やその代理人から直接訴状が郵送もしくは持参されて届いた場合
には、
「訴訟の開始に必要な呼出し」
があったとは認めないわけです。

モデル助言:
確かに、本件のように海外から訴状を送りつけられたら、パニックに陥るのも無理からぬところです。
しかし、ここは、まず落ち着きましょう。
一方で民事訴訟法118条2号後段は、外国裁判所の確定判決が効力を有するための要件として、別途
「応訴したこと」
を規定しています。
応訴とは、事件の内容について弁論をし、又は弁論期日等において申述をすることをいいます。
つまり、わざわざ外国の裁判所に行って期日に出席したり、外国の裁判所に答弁書を提出してしまったりすると、
「応訴」(同号)
したことになり、外国裁判所の確定判決が効力を有するための要件の1つを満たしてしまいます。
その結果、海外の裁判所で受けた敗訴判決が日本で有効となり(同法118条)、執行されてしまう危険が高まってしまうのです。
ですから、本件の場合、そんな訴状は、無視が一番です。
くれぐれも外国の裁判所にまで行ったりはしないでください。
また、本件において、たとえアメリカで、御社が敗訴判決を受けても、当該敗訴判決は日本で効力を持ちません。
ですから、日本で御社の財産が差し押さえられるということもありません。
もちろん、御社がアメリカにおいて執行されるような財産を有していたら、アメリカで受けた敗訴判決により財産を差し押さえられる可能性はあります。
しかし、御社は、現在目元シワとりクリームも日本国内限定での販売ということでしたので、アメリカにおいて執行されるような財産はお持ちではないと思います。
その意味でも、本件の訴状は、無視して結構です。
ま、事前に相談してもらってよかったです。 

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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