00299_メーカーによる「専門販売員による対面販売義務づけ」措置の、独禁法違反リスク

メーカーが流通価格を制御する方法として、量販店や格安店に卸さない、卸させないという方法や、販売価格や再販売価格を守らせる方法(これに違反したら商品を供給しないというペナルティが課せられる)等がありますが、こういうダイレクトな方法だけでなく、もっと、ソフトでスマートでエレガントな方法も考えられてきました。

すなわち、
販売「方法」
として、店舗に対して、量販店や格安店では到底対応できないようなルールや方法を指定する、というやり口です。

典型的なものが、ある化粧品については、必ず、
「メーカーの指定した教育プログラムを受講した専門販売員がきちんとお客様に説明して販売せよ」
というルールを策定し、これを、店舗に対して強制する方法です。

量販店やディスカウントショップに、いきなり高級デパートの1階化粧品売り場のようなおハイソなブースが登場したら、それはそれで、なかなかシュールで味わい深い光景とはいえなくもないですが、そんなコストのかかることをやっていたら、ディスカウントショップとしては、商品を安く提供できません。

ところが、こういうメーカーが考案した、
販売の「方法」面
について、事実上、間接的に
「ディスカウントショップに卸してはいけない」
する行為が、独占禁止法に抵触する場合があります。

高級化粧品卸販売に関して
「専門販売員による対面販売ができる店以外に卸してはいけない」
という拘束を課したことが独占禁止法に違反するか否かが裁判で争われました。

最高裁1998(平成10)年12月18日判決は
「義務付けられた対面販売は、付加価値を付けて化粧品を販売する方法であって、化粧品という商品の特性に鑑みれば、顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響することは自明のことであるからそれなりの合理性がある」
という趣旨の判断をしています。

「顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響すること」
なんていってますが、
「対面販売なんか要らんから、安く提供せんかい」
という消費者の声は相当大きいはずで、やっていることは反競争行為そのもので、最高裁の前記判決は、反競争行為の追認、お目溢し以外の何物でもないような気がします。

そういう後ろめたさもあってか、
「それなりの」合理性がある
なんて、ためらい傷のような歯切れの悪い言い方をしています。

こういう事情もあり、この判例を、
「対面販売は完全自由」
と言い切ったと解釈するのは早計かと思われます。

したがいまして、この種の、エレガントでスマートでソフィスティケイテッドな
「格安店や量販店」
を排除するための、
販売「方法」面
での反競争チックな行為を考える際は、
「『それなりの合理性』がない対面販売の強制は独占禁止法に違反する可能性があるし、最高裁判決も、論理がめちゃくちゃでメーカー肩入れのトンデモ判決であり、いつ変更されてもおかしくない」
との前提で取引構築すべきと思われます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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