00316_取締役会の賛同を得るつもりで開始した友好的MBOで、根回し不足で取締役会が造反した場合のリスク

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣による会社買収のことをいいますが、上場にまつわるさまざまなコストを忌避して、創業社長が上場廃止策として実施するケースが増えてきました。

「大変な思いをして上場しておきながら上場廃止にする」
など何とももったいない話ですが、逆に言えば、そのくらい上場維持のための直接間接の負担や敵対的買収リスクが大きくなっているのだといえます。

MBOを実施するといっても、創業社長等の筆頭株主がポケットマネーで市場に出回っている株式を買い戻すのは困難ですので、金融機関から借り入れたり、共同でTOBを実行したりすることとなります。

協力してくれる金融機関はリスクを嫌いますので、契約上
「TOBについて取締役会が異議なく賛同表明すること」
をファイナンスや投資の条件として要求してきます。

創業社長が取締役会を押さえ切れず、取締役会がTOBへの協力を拒むと、MBOの契約(実際はTOBのファイナンスや共同買付契約)上、金融機関が直ちに手を引くことを定めておりますので、MBOはたちまち頓挫することとなります。

2007年に社長として招聘した元バレーボール日本代表選手を解任するという騒動を起こした婦人用下着販売会社のシャルレですが、同社創業家は、2008年9月、モルガン・スタンレーグループと共同してMBOを提案しました。

当初、シャルレ社取締役会は、このMBO提案について、TOB価格の妥当性も含め、賛同していました。

ところが、その後、取締役会が豹変します。

「TOB価格が不当に安い等の内部通報が相次いだ」
として、外部弁護士を含む第三者調査委員会を立ち上げます。

そして、同委員会が
「利益相反行為があったとの疑念を払拭できない」
との調査結果を提出したことをもって、シャルレ取締役会として賛同表明を撤回し、創業家と真っ向から対立する構えを見せたのです。

モルガン・スタンレーとの契約上、
「シャルレ社取締役会の賛同」
が共同買付実行の条件となっていたため、結局TOBが不成立となり、ここにMBOが頓挫することとなったのです。

この後の詳細は不明です。

MBO・TOBが頓挫するだけであればいいですが、
「転んでもタダでは起きない」
外資系証券会社のことですから、取締役会が賛同表明せずにTOBが失敗した場合、MBO実施当事者(証券会社からファイナンスを受けた創業家)が成功報酬相当額の違約金を払わされることもあり得ます。

さらに、もし株価が下落した場合、混乱によって不測の損害を被ったとして、株主から代表訴訟を提起される危険性も考えられます。

いずれにせよ、MBOをやるならやるで、ボードをしっかりコントロールしておくべきであり、さらに言えば、波乱要因となるような無茶なTOB価格を設定したりしないように注意・警戒すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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