00332_日本企業法務史(6)かつての資本市場・「売り買いされることなく、永遠の生命をもつ存在としての企業」

前世紀末から今世紀初頭にかけて、日本の資本市場も驚くべき変化を遂げます。

高度経済成長を成し遂げた昭和時代からバブル経済崩壊以前までの経済は、インフレーション(膨張)基調にあり、日本企業の業績も概ね右肩上がりで推移し、新株や社債の発行による資金の調達もスムーズに行われていました。

「ゴーイングコンサーン(「企業が永遠に継続する」という理論的前提)」
という言葉のとおり、上場企業はどこも永続的に存続するものと考えられ、企業は、多数の
「口数の少ない株主」
に支えられ、行政による手厚い保護を受けることで、誰からも摯肘を受けることなく、平和裡に経営を行ってきました。

親密な企業同士で株式を持ち合うことで経営者自身の保身が絶対的に確保されており、
「株式額面を想定元本とした、銀行金利程度の配当」
をチョロチョロ出している限り、株主や市場から厳しい突き上げを食らうこともありませんでした。

要するに、経営者は自らが思うがままの舵取りをできた時代だったのです。

加えて、
「簿価会計(取得原価主義)」
すなわち実態と完全に乖離した会計ルールが許容されていたため、企業は、株や不動産の価値が上昇するインフレ経済の下、莫大な含み資産を有することとなりました。

このような
「埋蔵金」
を山のように有する企業は、資本市場に背を向けても問題なく財務運営が可能であり、したがって、企業は、資本や資産の効率的活用など歯牙にもかけず、財務指標改善やIR活動についても真面目に行いませんでした。

それでも株式市場は活況で、株価は高水準で上昇を続け(これにより、持ち合いで保有する株式の価値がますます増し、さらに含み資産が増すことになります)、
「特異な意図・目的を有する、特殊な素性の者」
を除き、
「特定の株を買い占めて企業を乗っ取ってやろう」
などと考える事業者等は現れませんでした。

万が一、株価が低迷して、株を買い占めるような輩が現れても、ホワイトナイトヘの第三者割当増資を行うという雑な対抗策を講じればいい話でした。

このような露骨で横暴な買収対抗策は、法理論上大きな矛盾をはらんでいましたが、マスコミは何ら批判することもありませんでしたし、司法の場においても企業経営陣側は徹底して救済されました(なお、このような裁判所による企業経営陣を保護する動向は、現在でも顕著に残っています)。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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