00380_賃貸借契約の大家が破産した場合、敷金が消失するリスクと、賃借人の対抗策

債務者が債務を支払えなくなると、力のある債権者が強引に取り立てをして財産を持ち去ったり、債務者と仲の良い債権者だけが弁済してもらったりするなど、不公平な処理が発生しがちです。

そこで、破産制度は、債務者の経済的破綻を債権者の間で公平に分担させるため、裁判所が
「コイツは債務を支払えないから、破産手続きを開始させて、残った財産を皆で公平に分配しよう」
と宣言した場合には、各債権者は、その債権額に応じて、債務者に残った財産から平等に弁済を受けることとしています。

例えば、債務者である大家の総債務額が100万円、敷金債権が10万円だとして、大家の手元に残った財産が1万円とします。

この場合、敷金債権は総債務額の10%しかありませんから、債務者の手元に残った1万円の10%である、1千円しか分配されないことになります。

このように、敷金を人質に取られていながら、賃料を従来どおり支払っても、敷金は一部しか帰ってこないのです。

これでは、大家が破産した場合には、賃料を支払わない方が利口にもみえますが、賃料の不払いを行うことは、破産管財人から、賃料不払いを理由として、賃貸借契約を解除されるリスクを伴います。

そこで、賃貸借契約を解除されないように、
「店子が負担する賃料債務と、店子が持つ敷金返還請求権とを相殺して、賃料を支払ったことにすればよい」
とも考えられます。

しかし、この点については、
「店子が建物を明け渡した後で、その時点で大家が店子に対して有している債権額を敷金から引き、なお残額がある場合に、ようやく敷金返還請求権が店子に発生する」
との最高裁判例があるので、建物を引き渡す前の段階で賃料と相殺をすることはできません。

これは、大家の破産という非常時でも同じです。

このような法律の仕組みを見ると、店子は踏んだり蹴ったりのようです。

しかし、破産法は店子の権利を保護する規定をきちんと設けています。

破産法70条は、
「店子が賃料を支払う場合には、敷金返還請求権の額を上限として、支払額の寄託を請求できる」
と規定しています。

例えば、店子が3600万円の敷金を大家に預けている場合には、毎月の賃料300万円を破産管財人に支払うたびに、支払う額について破産管財人に対して供託を要求でき、それを合計12か月間行うことができるということです。

これによって、店子が建物を明け渡して敷金返還請求権を取得した際には、店子は、破産管財人が供託していた額について、優先的に支払を受けることができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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