00388_金融リテラシーの欠如した企業が余剰資金運用に手を出す場合の重大なリスク

リーマンショックのちょっと前から、本件のように、大学が資産運用に色気を見せ始めるようになりました。

ただその結果といえばお粗末なもので、K澤大学は190億円の損失、K応大学は179億円の損失、I知大学、いえ、もとい、A知大学、N山大学、J智大学も軒並み100億円程度の損失を出していました。

他にも数十億円の単位で損失を出していた大学が多数ありますが、その中でも、K奈川歯科大学では、損失問題から刑事事件にまで発展しました。

同校では、人事権を掌握する理事が、その権力を背景に、実体のない投資先に巨額の投資をし、業務上横領等で逮捕されています。

経営陣が逮捕されるという異常事態から、年間7億円の補助金も打ち切られかねないという状況に陥りました。

K奈川歯科大学では、強大な権力を一手に握る理事を誰も止めることができなかったというガバナンスの欠如を指摘することができます。

また、K澤大学においては、多額の損失が通貨スワップ等のデリバティブ取引により生じましたが、これを運用していたのは一経理課長でした。

取引開始時には、理事長による最終決裁を経ていたものの、その後の取引を、同課長が理事長名義で捺印することにより行い、市況の悪化に伴い追加保証金が要求されたときにも、ひとりで処理を続けていたようです。

このことからは、商品特性に応じた運用ルールが全く定められていなかったことも明白といえます。

これらのガバナンスの問題や、運用ルールの不備は、組織作りの観点からの分析ですが、より重大なことは、担当者を含む学校経営陣に金融知識が全く欠如していることでしょう。

このことは、刑事事件等に発展してはいないものの、多額の損失を生んでいる多くの大学に共通していえることです。

金融リテラシーの欠如した経営人らがなぜ複雑な金融商品に手を出すのかといえば、金融機関に完全に依存した結果であるといわざるを得ません。

金融に明るい人が大学経営陣にいればよいのですが、そのようなことは稀ですし、多額のキャッシュを有する大学は金融機関にとってはおいしいカモ、もとい、お客様として、強烈な営業の対象となりがちです。

知識はないのに営業攻勢をかけられ、かつ、組織としてもやめる仕組みを設けていないとなったら、金融機関の食い物にされることは明らかでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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