00560_訴訟を提起する目的その3:怨恨を晴らすためにやっている(相手方をイジメたいからやっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

訴訟提起の理由として、相手方を苦しめるために訴訟を提起する、という場合があります。

訴訟による解決は、世間で思われているほど効率的ではありません。

訴訟を提起し、遂行するのは非常に時間とかエネルギーを要する一大事業です。

訴訟を提起したからといって必ず自分の言い分が認められるかというと、これも非常に難しい。

さらに、訴訟に勝っても相手方にお金がなければそれ権利を実現することは事実上不可能です。

「だが、少なくとも訴訟を提起することにより応訴の負担を相手に強いることができる。
とにかく現状を座視することはできないし、泣き寝入りするよりもまし」
という感じで訴訟を提起する人も結構いらっしゃいます。

カネ目的ではない分、合理的かつ理性的な話合いができないし、その意味ではカネの回収や目立ちたがり屋よりもタチが悪いタイプといえます。

この種の訴訟は、弁護士が依頼者と同化し、冷静なブレーキ役ではなく、一緒になってワーワー騒ぐようなタイプだと混乱に拍車がかかります。

さらに、これに刑事告訴とかも加わったりして、かなり物騒な雰囲気をかもしだします。

もし、こういう目的で訴訟が提起された場合、あまりアツくならず、過剰な装飾語(「不当」「言語道断」「法の趣旨を曲解した所業」「正義衡平の理念に反する」「法の趣旨目的の許容せざるところである」)が多用された相手方の主張に逐一反応せず、淡々とクールに自分の立場の正当性をきちんと説明することを心がけることが大切です。

それと、徹底して時間をかけて慎重に訴訟を進めるべきでしょう。

時間が相手方の気持ちを変化させ、和解の気運を呼び込むことだってありますから。

特に、経営陣ではなく、社外役員まで連座して訴えられた場合、社外役員はどちらかというととばっちりを受けた立場だと考えられます。

特に、社外役員等で、執行陣の危険な意思決定に積極的に加担していたわけではないことや自分はあくまで反対の意見を表明したこと等の事情がある場合、これらもきちんと説明した方がいいと思われます。

一見法的に無関係でも相手方の心情に影響や変化を与えるべき情状的な事情を述べ、とっとと個別に和解して脱退することもアリですから。

なお、この種の事件で対応を間違えると大変です。

たまに依頼を申し込まれる方で、
「最高裁まで係属してもかまわないから判決を取ってくれ。強制執行しても取れなかったら、強制破産(債権者破産)をして、相手方が経済的に死滅するまで徹底した手段を実施してくれ。刑事告訴できるネタがあったらじゃんじゃん頼む。カネならある」
などとおっしゃる方がいらっしゃいます。

こんなタイプの人を相手に
「強制執行しても取られるものなんにもないから大丈夫。多額な予納金が必要な強制破産なんてされっこない」
などとタカをくくってナメた対応していると、ホントに破産させられ、経済的信用を喪失する場合がありますので、注意が必要です。

なお、この怨恨を晴らすためにやっている(相手方をイジメたいからやっている)という目的に限定して言えば、訴訟というのは、極めて有効に作用します。

すなわち、憲法は裁判を受ける権利を人権として保障しておりますので、法的紛争があれば、裁判所という司法権力を担う国家機関は、裁判を拒否出来ませんし、相手も、放置したり、無視・座視していたら、欠席判決を食らったりしますので、それなりの対応を強いられます。

もちろん、不当訴訟などと言われるようなやり方は問題を却ってややこしくしますので推奨できませんが、訴える権利や法的立場があれば、裁判所を使うこと自体、保障された人権を行使しているだけですから、誰も非難できません。

その意味では、裁判を、
「権利が認められず、切羽詰まって止むに止まれず、窮余の状況を打開するため、最終手段として、用いるもの」
としてしか使えないわけではなく、
「法的権利関係が観念しうる相手方に対して、紛議を、大事(おおごと)化、フォーマル化することを通じて、法と裁判制度を使って、大掛かりな合法的嫌がらせ」
として利用しようとすれば、でてきしまう現状があります(いいか悪いかは別として)。

したがって、裁判制度を、このような、
「法的権利関係が観念しうる相手方に対して、紛議を、大事(おおごと)化、フォーマル化することを通じて、法と裁判制度を使って、大掛かりな合法的嫌がらせ」
としても機能しうる現実を考えるならば、怨恨を晴らすため(相手方をイジメたいから)訴訟を提起するという意思をもつ人間にとっては、訴訟は、極めて有効な方法として活用できてしまうことになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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