00561_訴訟を提起する目的その4:仕方なくやっている・パターンA(税務的都合でやっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

利害対立がシビアな典型的な紛争パターンとは別に、世の訴訟には、
「ガチンコバトル」
ではなく、やる気がまったく感じられないようなものもあります。

ご存じの方も多いかと思いますが、回収できない債権は持ってても何のトクにもならないので、早く償却するのが賢明です。

理論的に説明しますと、法人税法により、法人が貸倒れによって債権を回収できないときは、貸倒損失として所得の計算上損金に算入できるから、というのがその理由です。

つまり、法人としては、回収するあてもない債権を資産として計上するより、
「回収の努力をした結果、やっぱりできない」
という客観的事実を積み上げ、とっとと損金にした方が税務上メリットがある、ということになります。

貸倒れの認定としては、

1 いわゆる倒産に至った場合(破産や民事再生、会社更生法、会社法による特別清算)
2 任意整理において債権者集会の協議決定がなされた場合
3 債務超過が常態化し、弁済を受けることができない場合
4 債務者の資産状況、支払い能力等からみて全額が回収できないことが明らかとなった場合

の状況が認められるときに限られます。

逆に、こういう状態でないのに、勝手気ままに債権放棄したら、当該放棄額は法人税法上の寄付金と認定されるリスクが発生します。

すなわち、税法上は、法人が相手方に対し贈与や債権放棄した場合、寄付金として取り扱われることとなり、寄付金の限度計算を超えた額が益金に算入され、その分の租税負担が発生するのです。

そんなわけで、
「とりあえず、訴訟を提起しておいて、相手方の懐具合が空っぽで、たとえ勝っても取れっこなく、却って訴訟費用がかさむような場合、裁判所という第三者的機関の斡旋により一部債権放棄して和解し、とっとと当該放棄部分を損金で落とす」
ということが法人にとって合理的行動とされる場合があり、そのための手段として、訴訟を提起するケースが出てくるわけです。

馴れ合いといえば馴れ合いであり、裁判所としても節税のためのセレモニーに使われるのも迷惑でしょうが、実務的にはよくおみかけします。

そんなわけで、もし相手方がこういう目的で訴訟を提起してきた場合、相手方の真意をよく把握し、請求の存否に関する法的主張や反論もさることながら、いかに自分がビンボーかをアピールすることが双方にとって無意味な紛争を早期に解決するという観点からは重要だったりします。

事件を徹底的に争いつつ、相手方原告の決算期までもつれ込ませると、3月下旬に、あっさり和解なんてケースも実際ありますし、タイミングを見計らったり、それとなく相手方弁護士と本音を開示しあえる交渉環境を作ることも有益です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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