00614_企業法務ケーススタディ(No.0205):ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?をご覧ください。

相談者プロフィール:
河内(かわち)食品株式会社 取締役 仁柿 隆(にがき たかし、44歳)

相談概要:
会社で取り扱う冷凍食品に、日本の食品衛生法では未承認の添加物が混入していることがわかりましたが、取締役会で役員たちは楽観的な意見を出すばかりです。
「製造終了後すでに半年以上経ってるから、回収なんてできないぞ!」
「この添加物は中国だけでなくアメリカでも普通に使われているし、WHO(世界保健機関)の基準値を下回る濃度で使われていたんだから、健康被害の心配なんてナッシングだ!」
「1000万個以上出荷されてんのに、一切、クレームがないぞ!」
「ヘンに公表してみろ、マスコミやネットで叩かれまくるぞ! 今度こそ会社がつぶれるぞ!?」
「公表するとしても、世間の目が集中するような大事件とか大イベントがあるときにシレっと出すのが、会社の利益というモンだろう!」
「未承認添加物の混入、一旦、『聞かなかったこと』にしておこう」
「『自ら積極的には公表しない方針』の採用」
「D&O保険(Directors and officers保険;会社役員賠償責任保険)に入っているから、取締役の責任が問題になったとしても大丈夫!」
今年の4月から取締役に抜てきされたばかりの相談者は、発言できず、様子見をしています。
以上の詳細は、ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 誰でもなれる取締役
取締役になるためには、
「株主総会」
という通過儀礼を通過する必要はありますが、
「『取締役』として必要となる知識・技能を最低限身につけているかの確認」
がなされることはありません。
取締役は
「誰でもなれる」
という門戸の広さ、お手軽さの割には、重い責任が課せられています。
以上の詳細は、ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【誰でもなれる取締役】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 取締役に課される重い責任
法令上、取締役は、その職務を遂行するにつき、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。
何か間違った行為だけではなく、
「この問題について、適時に、適切な対応策をとらなかった」
という不作為にも、善管注意義務違反とされることがあります。
違反した場合は、会社に発生した損害を賠償する義務を負います。
以上の詳細は、ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【取締役に課される重い責任】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 「経営判断原則」による責任軽減
会社の経営には、スピードと即応力が何より重要であり、不確実な状況で、迅速な判断が迫られることが多いのが実情で、後になってから判明した事実に照らせば
「あの行為は間違っていた」
ことは多々あるのが普通ですが、それでは、誰も怖くて取締役になどなれませんし、会社が積極的な経営をするスピリッツを喪失し、株主をはじめとした会社をとりまく利害関係者全員が迷惑を被ることにつながりかねません。
そこで、
「とりあえず、やってみなはれ」
という
「経営判断の原則」という法理が会社法には存在します。
以上の詳細は、ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【「経営判断原則」による責任軽減】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 善管注意義務違反をめぐる最高裁判例
「未承認添加物が混入している商品の販売終了から半年後に、未承認添加物が混入していたことを知った取締役ら」
について、
「その事実の公表や、会社の信頼喪失を最小限度に食い止める方策を積極的に検討する義務があったのに、それをしなかった」
として、当時の取締役11名に対し、1名は約5億3000万円、1名は約5億6000万円、残り9名については約2億1000万円の損害賠償を会社に支払う判決がくだされた裁判例があります(最高裁平成22年2月12日決定、大阪高裁平成18年6月9日判決)。
被告となった取締役らの代理人弁護士は、
「経営判断の原則」
を持ち出し免責のための弁解を試みましたが、裁判所は一蹴しました。
以上の詳細は、ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【善管注意義務違反をめぐる最高裁判例をご覧ください。

モデル助言:
連座させられることのないよう、 法律知識を正しくもってしっかりと対応すべきです。
とりあえずは、取締役会で、現状の取扱いについて異議を明確に述べ、会社の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討するべきである、との発言を、議事録に書いてもらうべきですね。
取締役会がしばらく開催されないというのなら、取締役に与えられた権限である
「取締役会招集請求権」
を行使するべきです。
「D&O保険があるから大丈夫」
については、普通、約款には、
「法令に違反することを被保険者が認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由が存在する場合を含む)実施した行為については、保険金を払えない」
などと書かれています。
以上の詳細は、ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【今回の経営者・仁柿(にがき)取締役への処方箋】その1ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!?【今回の経営者・仁柿(にがき)取締役への処方箋】その2をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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