00616_企業法務ケーススタディ(No.0207):取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社ススキノ探偵事務所 代表取締役社長 大泉 汁(おおいずみ じゅう、42歳)

相談概要:
相談者は、取締役を解任しました。
すると、元取締役は
「一方的にクビにしたんだから、カネを払え」
「残りの任期がまだある、その分の月額報酬を耳をそろえて支払え」
という内容証明を会社宛に出してきました。
相談者としては、創業者である相談者本人とその他の古参役員で100%株式はおさえていること、司法書士に相談したうえで臨時株主総会で解任したのだから手続き的には問題ない、 そもそも取締役は従業員と違い労働基準法で守られているわけでもないのだから金銭要求は無視する、と考えています。
以上の詳細は、ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【事例紹介編】その1ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【事例紹介編】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 取締役と会社との関係
会社法は、資本多数決の原則を採用しています。
会社の基本構造を左右できる大株主らにおいては、
「会社は株主のもの」
ということができ、株主総会において役員を大幅にすげ替えることは可能です。
これは、会社と取締役の関係が民法上の
「委任」
という法律関係によって定められているからといえます。
取締役は、会社から、特定の業務の遂行を委ねられており、その際、善良なる管理者の注意義務をもって業務を行うように、とされています(善管注意義務ないし忠実義務といわれるもので、会社法355条と民法644条に定められています)。
「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」(民法651条1項)
とされていますから、取締役は、原則としていつでも解任され得るといえ、その地位は不安定といえます(会社法339条1項も同旨)。
以上の詳細は、ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【取締役と会社との関係】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 取締役に身分保障などというものがあるのか?
会社法は、取締役を株主総会の決議によっていつでも解任することができることを原則(会社法339条1項)としながらも、同2項において、
「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」
として、損害賠償請求という形で一定程度の身分保障を認めました。
「解任によって生じた損害」
というのは、残存任期分の報酬、という形で整理されることになります。
以上の詳細は、ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【取締役に身分保障などというものがあるのか?】その1ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【取締役に身分保障などというものがあるのか?】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 解任についての「正当な理由」
「正当な理由」
は、条文上は具体的には記載されておりませんので、裁判例等の具体的な事例によって相場観を把握していく他ありません。
最高裁判決昭和57年1月21日では、
「その取締役に経営を行わしめることが障害になる客観的な状況」
があってはじめて
「正当な理由」
あり、という判断が行われています。
したがって、正当な理由の存否が問題となっているような局面においては、病気等のよほど客観的な事情でもない限りは、裁判所において
「正当な理由なし」
と判断される危険性があるということを十分に認識した上で、交渉ないし訴訟対応をしていく必要があるというわけです。
以上の詳細は、ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【解任についての「正当な理由」】をご覧ください。

モデル助言:
「従業員とは違うんだから、解任し放題だし、なんの要求にも応じる必要ない!」
などと突っぱねるわけにはいきません。
解任を基礎づける相応の理由がある可能性がある、ということを前提として、これを十分に説明しつつ、慎重に対応していく他ありません。
具体的には、解任には
「正当な理由」
があった、ということを適時・適切に反論していくことになります。
対象となっている取締役が、取締役であり続けるとすれば、
「会社経営にどのような形で害悪をもたらすのか」
ということを客観的な事情とともに摘示していかねばなりません。
仮に裁判になったとしても残存任期分の報酬請求は認容される可能性が高いということを前提としますと、裁判外交渉の中で相手方から合理的な要求が出てくるようなら、和解に応じることも十分に選択肢としてはあり得るところです。
このように法律の構造を把握し、また、裁判例等における相場観を知っておくことで、無駄に裁判にまで流れていって、弁護士費用の負担も含め大負けするリスクを回避することができます。
以上の詳細は、ケース14:取締役なら、テキトーにクビを切ってもノープロブレム!?【今回の経営者・大泉社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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