合弁事業(ジョイントベンチャー、あるいはジョイベン)を行う合弁会社において、マイノリティシェア(株式割合半数未満)しか掌握できない場合に、合弁事業で後から泣きをみないためには、まず、合弁事業体の組織形態の選択からよく検討すべきです。
合弁事業体の組織形態として深く考えず
「とりあえず」
という形で株式会社が選択されますが、この辺りの思い込みから見直すべきといえます。
例えば、組合形態であれば、組合持ち分の譲渡は他の組合員の同意なしに行うことは困難ですし、単純な多数決原理ではなく、十分な議論を経た合意形成が重んじられます。
また、合同会社という選択もあり得ます。
すなわち、合同会社は、出資者は株式会社同様、有限責任しか負いませんが、法人統治は組合のような閉鎖的規律で運営されますし、また、出資者の交替には全出資者の了解を要し、加えて、合同会社の業務執行権は原則として全出資者が有します。
このように、有限責任のメリットを享受しながら、複数の企業が互いに他方の独断や横暴を防止し、納得と合意に基づいて合弁事業を運営したい場合、合同会社は非常に理想的な組織選択と言えるのです。
また、仮に、合弁法人として株式会社を選択するような場合でも、まずはマジョリティーシェアを要求すべきです。
「マジョリティーシェアが取れない場合まら、合弁事業を止める」
といって駄々をこねたり、ブラフをかますのも、道義上・倫理上はともかく、法律上・戦略上としては、全然アリです。
とはいえ、合弁相手とのサイズの問題、バーゲニングパワーの問題等で、どうしてもマジョリティーシェアを取れない場合は、合弁契約の内容において自らの権益を具体化し、マジョリティーシェアを掌握したパートナー企業の横暴を許さないようにしておくべきです。
さらに、自社がマジョリティーシェアを取れない場合、合弁会社が自らの関与なしでは身動きできないようにする、契約外の状況構築や非法律的な制御方法も考えるべきです。
例えば(ほんの一例ですが)、自社が合弁会社における調達や販売の排他的窓口となって合弁会社の商流を完全に掌握しておいて、相手先企業が不穏な動きをしようとすれば直ちに商流を制限するとか、商標権を自己名義で登録して合弁会社に貸与する形をとっておき、多数派のパートナーが不当なことを要求してきた場合には、報復措置として商標ライセンスを停止しつつ解決の糸口をつかむ、といった方法です。
中国の易経に
「治にあって乱を忘れず(治而不忘乱)」
という言葉がありますが、
「リスクの高い事業を、打算と欲得だけで結ばれた関係で、見知らぬ相手と一緒に遂行する」
という合弁事業の本質をふまえ、リスクシナリオをしっかり描き、後で泣きをみないように十分な予防策を講じておくべきです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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