00673_証人尋問の最大のヤマ場は反対尋問ではない

証人尋問の最大のヤマ場は、決して、
「相手方代理人からの厳しい反対尋問」
ではありません。

「私なりの理解と認識と解釈によりますと」
という限定ないし留保がついてしまいますが、当事者の情緒的な思いを切り離し、観察基準点を裁判官からの視点・観点に切り替えてみますと、
「証人尋問手続きにおいては、主尋問もさることながら、反対尋問について適切な尋問が行なわれる期待はあまりなく、本来の制度運用から考えて無意味で無関係で無価値なものが多い」
と思われます(その昔、裁判官へのアンケートで、弁護士の尋問において有効適切なものはどのくらいあるか、という質問があったのですが、有効適切と答えた割合が思いのほか低く、裁判官は、弁護士の尋問に期待していない、という状況が鮮明に示されていたことを記憶しています)。

弁護士の能力や、尋問の制度趣旨の理解能力の問題も関係しているかもしれませんが、そのこと以上に、弁護士も当事者側に立つわけですから、当事者としてのバイアスやフィルターがかかるわけですし、中には情緒的・攻撃的な当事者にシンパシーを感じ同調する場合もあるでしょうし、依頼者対策として
「怒り狂っている当事者の気持ちを大きな声と派手なパフォーマンスで代弁して溜飲を下げる」
というくだらないことをしないとギャランティがもらえない、という事情が反映していることもあるでしょう。

もちろん、
「裁判官は、弁護士の尋問に期待していない」
というのはデフォルト設定として、という意味である、中には、裁判官が聞きたいことや、口頭でしか語れない書面の隙間を巧みに埋めるようなエピソードやサイドストーリーを聞き出す
「上手い尋問」
が飛び出す場合があるかもしれません。

考えてみればそうでしょう。

2人がケンカして、今でも殺し合いが始まるくらい、揉めに揉めて揉めまくっていて、ケンカの仲裁に入った自分が最終決定権がある状況で、責任を以て事情を聞かなければならない。

責任ある仲裁人である自分が、冷静かつ中立的かつ客観的な立場で、直接、普通に事情を聞けば、とっとと解決できるかもしれない。

にも関わらず、やたらと弁が立ち、相手の揚げ足を取るのが巧みで、小利口で厄介な連中が、小遣い銭をもらって、代弁者として立ち、事件を正しく解決することなどお構いなしに、成功した場合のギャランティを目当てに、その連中が、自分(仲裁者)の代わりに、インタビュアーとなってヒヤリングをおっぱじめることとなり、自分が直接インタビューできず指を咥えてみているほかない、という面倒でキテレツな方法でヒヤリングがおっぱじまることになった。

代弁者は、ギャランティ目当てのスポンサー向けにパフォーマンスとばかり、無意味で非本質的なことばかり聞いて、相手の足を引っ張ろうとしたり、相手を困惑させたり、相手を侮辱したり、ケンカの話とは別の因縁の話に脱線したり、人格や数年前の別の失敗を持ち込んだり、ケンカは収まるどころか、余計に話がややこしくなり、ケンカが余計に激化するだけ。

そんな無意味でむちゃくちゃな仲裁ルールがデフォルト化したら、仲裁する立場としては、
「証人尋問手続きにおいては、主尋問もさることながら、反対尋問について適切な尋問が行なわれる期待はあまりなく、本来の制度運用から考えて無意味で無関係で無価値なものが多い」
という諦めの気持ちとともに憂鬱な気分で証人尋問に臨む、ということもなんとなく納得できます。

では、なぜそんな
「無意味で無関係で無価値な証人尋問」
をわざわざ行うのか、というと、
「ひょっとしたら書面と全然違う事実が判明するかもしれないので消極的確認を尽くしておく」
という保険的意味合いがあります。

加えて、地裁の裁判官としては、たとえ事件の筋が明らかであっても、高裁段階で新たな事実や証拠が出てきて、
「地裁できっちり調べることなく適当な欠陥判決を出しやがった」
という怨嗟の声とともに自分の判決がひっくり返される危険と恐怖(手抜き裁判で当事者と高裁に迷惑をかけ顰蹙を買う恐怖)を防止する必要から、手続保障を尽くしておく、という実に志の低い意味合いからです。

とはいえ、実際証人を呼んだところで、ほとんどのケースでは、それまで出てきた主張やこれを支えた書面の証拠から大きく逸脱することはなく、ただ、弁護士が、依頼者向けパフォーマンスも含めて、どうでもいいことをぐちゃぐちゃ突いて、したり顔になっている、裁判官はそのような心象風景で冷ややかに眺めている(あるいは、あまりにくだらなく退屈で半分眠っている場合もあるかもしれません)・・・これが、私が実務経験を通じて知る民事裁判の尋問の現場の実際です。

証人尋問は、裁判官からすると、極めて例外的な場合を除き、主尋問反対尋問それぞれが退屈で眠たい儀式として行なわれ、その様子をつまらなそうに眺めて付き合うのですが、そんな裁判官が、終盤も終盤になって、突然張り切る場面が出てきます。

尋問の最大のヤマ場中のヤマ場、
「補充尋問(裁判官による質問)」
です。

補充尋問では、本当に重要で、事件の勝敗分岐にかかわる決定的事項の確認がなされます。

考えてみれば当たり前です。

事件の勝敗を決するステークを握る覇権的な独裁者である裁判官が、直接興味や関心をもって事情を聞くわけですから、つまらない質問や関係ない質問や無意味な質問は一切ありません。

先程のケンカの仲裁の話のアナロジーで解説しますと、
「やたらと弁が立ち、相手の揚げ足を取るのが巧みで、小利口で厄介な連中が、小遣い銭をもらって、代弁者として立ち、事件を正しく解決することなどお構いなしに、成功した場合のギャランティを目当てに、その連中が、自分(仲裁者)の代わりに、インタビュアーとなってヒヤリングをおっぱじめることとなり、自分が直接インタビューできず指を咥えてみているほかない、という面倒でキテレツな方法のヒヤリング 」
がようやく終わり、仲裁の最終決定権があり、責任を以て裁断すべき自分が、いよいよ、冷静かつ客観的に観点から、事件の確信の話をインタビューできる、という場面がやってくるわけですから、無意味なわけはなく、むしろ、事件の核心に迫る、最重要局面といえます。

もちろん、裁判官として特に聞きたいことがない、もう結論を決めている、聞きたいことはあったが主尋問と反対尋問で聞いてくれたので十分、という場合は補充尋問無しで尋問は終了します。

補充尋問の際、裁判官の中には、滑舌が悪くボソボソと小さい声で何をいっているのかわからない、質問そのものが下手くそ、という残念な人間もいます。

そのときに、適当に曖昧に愛想笑いしていい加減な答えをしたばかりに、
「それまで話した内容とまったく違う答え」
と誤解されると、取り返しのつかない事態になります(私の実際の経験ですが、滑舌の悪い小声の裁判官の質問に、反対尋問で気が抜けた相手方証人が適当に相槌を打って適当にやり過ごそうとしたことで、思わぬ方向で、事件が進み、こちらが望外の結果を手にした、ということがあります)。

なにせ、弁護士が裁判官質問に異議を出すなんてことをすると、裁判官から不興を蒙り、判決や心証形成の際のしっぺ返しの元凶を作ることにもなりかねません。

再主尋問も反対尋問も終了したあとなので、是正・訂正する機会もありません。

すなわち、裁判官に対する受け答えが、最終的かつ決定的な答えとして事件を決定づける可能性が大きいのです。

裁判官の質問が聞き取れない、わかりにくい、答えにくい場合は、弁護士から異議を出すのは難しいので、証人の方から、
「ちょっと質問が聞き取れません」
「質問の意味がわかりません」
とダメ出ししましょう。

質問した裁判官は、怒ることなく、明瞭に質問しなおしてくれたり、もっと簡単で端的な質問に切り替えたりしてくれるはずです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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