00692_法務担当者として体得すべき法務文書作成方法

法務文書とは、特定の具体的事実を立証する力を有することを根源的本質とします。

特定の
「事実」
であり、評価や解釈ではありません。

ですから、こいつはひどい、あいつは悪い、これは許せない、正義に反する、これは素晴らしい、といった修飾語は、基本的に不要であり、有害なノイズとなります。

もし、どうしても、そういう評価や解釈を叙述したいであれば、評価の根拠となった事実や、特定の解釈を示唆・誘導する具体的事実を記述することになります。

「こいつは、バカである」
という叙述は、単なる評価や解釈であり、法的にはほとんど意味を持ちません(「発言者が、品位低劣で、物言いがエレガントでない」という事実の有力な根拠にはなり得ますが)。

むしろ、
「この方は、国語が百点満点で3点であり、数学が百点満点で8点であり、英語は百点満点で6点でした。ちなみに、それぞれの平均点は、65点、70点、68点です。ただ、この方の知的な評価は差し控えたいと思います」
という事実を叙述した文書さえ残っていれば、叙述した人間の評価や結論が差し控えてあったとしても、他の誰がみても、
「こいつは、相当バカだ」
という最終的な評価や解釈は容易に導けます。

このように、
「評価や解釈上の結論を断定せず、これらの根拠となり、あるいは評価や解釈を示唆誘導する有力な『事実』だけを使って、一定の明白な結論を異議を差し挟む余地なく断定するような文書」
こそが、法的な価値の高い文書といえます。

そして、特定の
「具体的」事実
であることから、事実は、あいまいさや不明瞭さがあっては法的証拠としての価値はありません。

この点、私などは、よく、
「日本昔話型文書」
は法務文書としては使えないという形でお話します。

日本昔話の出だしは、
昔々、あるところに、じっさまとばっさまがおった・・・・・
と始まります。

しかし、このような叙述の文書を示されても、事実を判断認定する側からすると、
昔々、って何時のことやねん!
あるところ、って、お前、それどこのことやねん!
じっさま、ばっさま、って名前なんやねん! 名乗らんかい! わからへんやろ!
とツッコミ満載で、認定の道具としての証拠の価値はゼロと言わざるを得ません。

実務でも、
甲(甲の子会社あるいは関連会社を含む)と乙(乙の親会社を含む)とは、乙の求めに応じ、別途定める品質の、甲が販売あるいは取り扱う商品について、別途両者が定める価格で、別途定める納期で、別途定める方法において、売買契約を別途締結し、当該売買を行うみたいな、
「日本昔話型契約書」
を見ることがあります。

そして、その後、何の文書もなく、取引がなし崩し的に進んでいき、やれ品質がおかしい、納期が割れた、価格が高い、デリバリーの方法がいい加減で途中で半分壊れた、と訴訟になり、この
「日本昔話型契約書」
を唯一の証拠として、お互いが仁義なき訴訟を延々続ける、という光景を目にすることがあります。

こうならないようにするためにも、法務文書には、約束内容であれ確認事実であれ、報告事実であれ、具体的事実、すなわち、
5W2H
=When, Who(to whom, with whom), Where, What, Why, How, and How much (many)
を明瞭に記述し、
作成日付、作成法人名と住所、担当者と担当者の所属やタイトルや権限といった付加情報
を記した適切な文書を作成しておくべきです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

また、改竄防止、機密保持対策の点から、作成者と保管者の区別、文書アクセス権者の制限等を決めておくとさらに役立ちます。

運営管理コード:CLBP57TO58

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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