00704_契約書のチェックの段取りと実務その1:「契約書」はなくとも「契約」は成立する

法務部においては、
「契約書のチェック」
という業務カテゴリーが非常に重要なものと考えられています。

しかしながら、
「契約書のチェック」
とは、一体、何を目的として、どのような段取りで、どのようにすすめていけばいいのか、法務担当者も、あるいは、顧問弁護士も今ひとつ理解されないまま、すすめられているような実情があるような気がします。

ここでは、
「契約書のチェック」
という極めて多義的で曖昧で内容不明な業務について、目的や段取りや進め方を解説していきます。

ここで、契約書とは、そもそも、どのような目的で作成され、どのような価値と意義があり、作らなかったり、中途半端なものを作った場合にどのようなリスクやダメージが想定されるのか、ということを始めに明らかにしておきたいと思います。

まず、
「契約」

「契約書」
のことについてお話ししたいと思いますが、
「契約と契約書」
なんて言い方をすると、
「何をややこしいこと言うてんねん。そんなもん、“ファミリーレストラン”と“ファミレス”みたいなもんで、言い方変えとるだけで、同じもんやろー!」
というツッコミが返ってきそうです。

ですが、法律上、
「契約」と「契約書」は、まったく別物として区別
されるのです。

まず、
「契約『書』」
はなくとも、
「契約」そのもの
は問題なく成立します。

そもそも
「契約『書』」
なんて意味不明で難解な漢字がたくさん書いてある紙切れなどなくたって、当事者間できちんと意思表示が取り交わされていれば、契約は成立するものです。

すなわち、
「契約『書』」などというご大層な紙切れ
を逐一作成しなくとも、
電子メールでおこなったものであれ、
口頭で行おこなったものであれ、
「何を、いくらで、取引する」
ということが明確にされている限り、原則として
「契約」は法律上有効に成立
するのです。

民法上、
「取引を円滑・活発にする上では、当事者の意思こそが尊重されるべきである。当事者が互いに納得したのであれば、方式や手続などおかまいなしに取引を成立させるべきだ。当事者間に。“お上”ないし“当局”が介入し、あれこれ無駄で煩瑣な方式や手続を強制するのは自由主義経済の発展を阻害する」
という考え方の下、
「契約成立における意思主義の原則」
というドクトリンが採用されております。

意志主義の帰結として、
「契約当事者同士が、適切に取引上の意思表示を取り交わして取引が成立したのであれば、契約目的物の交付や契約書面などといった別途のプロセスや手続がなくとも、契約は完全かつ有効に成立する」
とされるのです。

無論、
「契約『書』という文書がなくとも契約は成立する」
という原則にも例外はあります。

例えば、
「約束手形の振出」等
というのは、
「手形」という紙切れ
が絶対的なものとして要求され、手形もなく支払いを約束するは、法的な意味での手形行為として成立しえません。

また、保証契約には書面あるいは電子データという要式が必要となったのと、遺言については遺言書という要式書面が必要となりました。

ですが、このように一定の方式が要求される契約は極めて隈定されており、法律上の原則論としては、
「契約書がなくとも契約は問題なく成立する」
という取扱が取引一般において貫徹されています。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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