00708_契約書のチェックの段取りと実務その5:契約書を作成・チェックする前の必須の前提作業たる「契約内容の明確化と合理性の検証」の具体的手法

取引の交渉がまとまった、という段階において、改めて、当該交渉によってまとまったとされる
「約束内容」
の具体的内容を確認・明確化するとともに、その内容の合目的性や経済合理性等を精査しなければなりません。

そうでないと、できあがった契約書が、
狂った契約書、
馬鹿げた契約書、
不利な契約書、
何の目的かはっきりしない契約書、
意味が不明な契約書、
曖昧な契約書、
不明瞭な契約書、
となる危険性を除去できません。

営業部や経営企画等、取引交渉を行う事業部局が相応にしっかりしていれば、交渉の際に、条件を具体的に詰めますし、その段階で、異常な内容や不利な内容を排除したり折衝によって調整しますし、交渉結果は、明瞭かつ具体的に、タームシートといったものに記述されます。

中には、正式な契約に至る前に、タームシートレベルのものをとりまとめた、MOUやLOIといった形で、相互に文書確認をする場合があります。

このように契約交渉担当部署がしっかりしていれば、タームシートや交渉議事録やメモ、さらにはMOUやLOI等を参照しながら、これをさらに法的なストレスチェックをして、不安なことや、リスクの萌芽を、文書化して、加筆・上書きしていき、契約書の形でまとめていけば契約書完成に至ります。

他方で、契約交渉担当部署が、そのような堅実な実務に不慣れな場合や経験未熟な場合、契約書作成に前置すべき必須の前提手続きとして、法務サイドにおいて、
「当該交渉によってまとまったとされる約束内容の具体的内容を確認・明確化するとともに、その内容の合目的性や経済合理性の検証結果を示せ」
「そういうものが決まっていないのであれば、法務作業以前の問題故、ビジネスサイドにおいて、再度、詰めの交渉をやり直せ」
と前置プロセスの完遂を求めて、事案を突き返すべき必要が出来します。

この際、契約書作成依頼や契約書校正依頼が法務部に持ち込まれる際、これら法務作業のキックオフ前提として、
「交渉によってまとまったとされる約束内容の具体的内容を確認・明確化するとともに、その内容の合目的性や経済合理性の検証結果」
を文書で報告ないし連絡させる、というプロトコルを確立することが、その後の業務をスムーズにしたり、あるいは、交渉段階の漏れ抜けやミスやエラーを防止したりする上で、効果的です。

例えば、
「契約内容の確認及び合目的性・合理性検証シート」
といった報告ないし連絡書式を整備し、
法務部に契約書作成や契約書校正といった法務サービスを法務部に発注する際、必ず、この
「合性検証シート」
にしかるべき記述をさせ、その上で、法務部に発注する、という方法です。

この
「契約内容の確認及び合目的性・合理性検証シート」
に記述させるべき内容は、前述の
「営業部や経営企画等、取引交渉を行う事業部局が相応にしっかりしていて、交渉の際に具体的に詰め切った取引条件が明瞭かつ具体的に記述されたタームシートや、当該取引によって実現されるべきゴールやメカニズムがリスクとともに検証された収益実現プロセスの資料」
に盛り込まれるべきものと同等のものです。

一例としては、

・案件名(社内コードネーム)
・責任者
・新規/既存(の変更や拡大)の別
・決裁者
・案件目的(カネを増やす、支出を減らす、時間を減らす、手間をへらす、安全保障、認知改善等)
・案件概要
・投資回収メカニズム
・投資回収上のリスク及び課題
・予算や動員資源の全容
・投資金額
・RFP(要求定義及び提案書及び関連資料)、見積書
・取引先の名称や概要
・取引先の詳細
・取引先の選定方法(他の候補先、相見積の有無、相見積の方法、選定の基準)
・選定理由
・交渉の経緯と議事録及び資料(タームシートやMOUやLOI等、交渉成果が整理されまとめられた成果物があれば、これを含む)
・投資による定量的メリット
・案件収益による投資回収期間と試算の方法・内容・根拠
・「合理的経済人たる金融資本家の冷静かつドライかつシビアの目線」を観察基準目線として評価した、当該投資の合理性・功利性・安全性・競争性・非代替性の評価・検証(合理的投資家が、投資案件として評価した場合の採算性・合理性等のストレス・テスト)
・上記に対する補足説明
・その他

といった事項に記入させ、この記入プロセスを通じて、契約内容を具体化させ、契約の合理性を確認検証させる、といった方法です。

企業によっては、このように、取引内容を具体化もせず、合理性も確認検証しないまま、契約書作成に突入し、取引をキックオフするところもありますが、できあがった内容は、どれほど立派で重厚な契約書であっても、所詮、いい加減で適当な内容の契約を表現したに過ぎず、法的な問題以前の、経済合理性を充足せず、取引が失敗する危険性を内包しているものと言わざるを得ません。

そうなると、取引の失敗や、ツメの甘さゆえのトラブルは、
「構造的にデタラメで、ツメの甘い、無内容」
な契約書を頼りに紛争になっても、勝てるどおりはありません。

取引のトラブルに遭遇して、「この契約書を証拠に裁判で戦って、勝訴したい」という話になりますが、当該証拠となるべき契約書が、「相応に難解で高級な言語で書かれた体裁の代物」であっても「構造的にデタラメで、ツメの甘い、無内容」なものを「高級な言語で表現しただけ」に過ぎず、このような貧弱な証拠を片手に訴訟を提起したところで、結果、壮大な無駄で無益で有害でミゼラブルな営みとなり、時間とカネと労力を費消しただけの結果に終わります。

このような悲喜劇に遭遇しないためにも、
「相応に難解で高級な言語で書かれた体裁の代物」
というだけで安心せず、
当該契約書が表現せんとしている取引の合理性もきっちり検証するべきです。

そんなことで、トラブルになるのか?
という声が聞こえてきそうですが、実際、
「相応に難解で高級な言語で書かれた体裁の代物」
に妙な安心を覚えて、取引内容の合理性を確認せず、結果、不合理極まりない取引にサインをしてしまって、大きなトラブルに遭遇して、債務超過に陥った東証一部上場企業(その後東証二部に降格し、現在は、また一部に昇格)があります。

このあたりの顛末は、

に記載しております。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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