00718_契約書のチェックの段取りと実務その13:契印、袋綴及び捨印等

契約書調印の際、
契約書が何ページにも渡る場合に、
「途中のページを差し替え、入れ替えさせて内容を変更する」
という違法・不当な改ざんを防止する必要が生じることがあります。

そういう場合に、上記のような改ざんを防止する方法として、契印や袋綴押印という手法があります。

まず、契印ですが、2枚以上にわたる契約書や法律文書を、1つの一体となった文書であることを証明するために、両ページにまたがって押印することをいいます。

両ページの見開き部分に半分ずつまたがるように押印をしますが、数ページに渡る場合、全てのページがつながるように、契印を続けます。

となると、例えば100ページの契約書は、かなりの契印を押すことになりそうです。

この場合、袋綴製本(各ページをホッチキス等で製本した上で、背面と表紙と裏紙をまたぐような帯で糊付けし、帯を剥がさない限り、途中の差し替えができないようにされた文書)を行った上で、
帯と表紙、
帯と裏紙
の両方にそれぞれ契印を行えば、途中の差し替えによる改ざんがされないことを証明することが可能となります。

なお、実務の世界では、
帯と表紙だけの契印、
帯と裏紙だけの契印
のいずれかだけの手法が見受けられますが、これでは、契印していない方の帯を剥がして差し替えによる改ざんは防止できません。

したがって、前記の袋綴製本契印手法は、片手落ちであり、前述のとおり、
帯と表紙、
帯と裏紙
の両方にそれぞれ契印
というのが完全かつもっとも正当な方法です。

なお、捨印や訂正印という押印手法もあります。

訂正印とは、文書の誤記を訂正するための押印で、署名押印欄の押印と同じ印鑑を使用します。

訂正の具体的内容としては、
余計な文字が削る場合の「削除」、
記入漏れがある場合に追加する「加筆」あるいは「追加」、
別の語句に入れ替え修正する場合の「訂正」
の3類型です。

削除の場合、誤った語句を二重線を引いた上で、訂正印を捺印し、さらに明確を期すのであれば
「削除○○字」
と記入します。

行間余白が狭く捺印できない場合や、印影の大きい場合は、欄外余白に
「◯行目 削除○○字」
と書けば明確となります。

追加(加筆)の場合は、吹き出し(「∨」)を書き、追加します。

文字の近くに訂正印を捺印の上
「追加(加筆)○○字」
と修正内容を書くか、欄外の余白部分に
「◯行目 追加(加筆)○○字」
と書きます。

訂正は、削除と追加(加筆)の合体です。

過誤の語句部分を二重線で削除した上で、その近くに訂正語句を記入するか、吹き出し(「∨」)を書き、訂正箇所付近に訂正印を押し、すぐ近くに
「削除○○字 加入(加筆)○○字」
と書くか、欄外余白部分に
「◯行目 削除○○字 加入(加筆)○○字」
と書いておきます。

捨印は、おって訂正が生じることに備え、欄外余白部分に押印しておくものですが、見方を変えれば、
書類を交換・提出した後に、相手方が訂正することをあらかじめ承認する意思を表明するもの
であり、相手方に対して、自由勝手に訂正して差し支えなし、という危険な意思表明です。

弁護士や司法書士等、資格によって職務遂行の信頼性が担保され、不正や悪用が行われることが想定されない者への提出・預託書類(委任状等)や、
銀行等、こちらもやはり許可事業を行い、業務遂行の信頼性が担保され、不正や悪用が行われることが想定されない者への提出・預託書類(金融口座開設申し込み書類)
については、捨印を押すことが行われます。

しかし、
「いかに弁護士や銀行といえども信用できないし、もし、不備があるならもう一度押印するから、何度でももってこい」
といって、捨印を拒否するのも自由です。

そのような職務遂行上の期待も、属性上の信頼性も担保されていない、むしろ、利害が対立する取引相手に対して、捨印を押した文書を交付するのは、リスク管理のセンスがなさすぎます。

実務の世界で、
「ありとあらゆるページにバカスカ捨印を押しまくっている契約書」
という何とも奇天烈なシロモノをみたことがありますが、無知とはいえ、ありえない契約処理といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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