00733_労務マネジメントにおける企業法務の課題2:どんな人間を選んで採用しようとするのか(採用する側と採用される側・学生側のイメージギャップ)

「従業員を採用するということは、約3億2000万円の買い物をするのと、同じである」
ということがいえますが、買い物と同様、採用も、
「安くていい買い物ができる」
こともあれば、
「使えない物を高値掴みさせられる」
ということもあります。

では、
「企業として、どんな人間を採用することが発展につながる」
とえるのでしょうか?

成長を続けるような企業は、採用の際、どのような点を意識しているのでしょうか。

皆様御存知の
「リクルート」
という企業があります。

1960年創業の同社は、就職情報サービス大手として成長し、現在、就職情報に限らず総合情報サービス産業として発展・成長を続けていますが、若手社員でも自由に事業を起こすことができる開放的な社風で有名な企業です。

同時に、起業家を輩出する企業としても有名で、多くの新興企業のトップや幹部にリクルート出身者が存在します。

「リクルートがこのように人材豊富な企業であり続けるのは、同社の採用方針に秘密があるのではないか」
と思い、ある酒席の場でリクルート出身の方に
「リクルートにおいて、採用の秘訣のようなものがあるのか」
と聞いたことがあります。

そのリクルートOBの方曰く
「リクルートとして、“このプロファイルの学生が来たら、絶対採用する”というスペックがある」
ということでした。

そして、その“絶対採用する学生のスペック”なるものを聞いたところ、
「まず、一番が、東大ボート部出身者。次が、東大陸上部で長距離をやっていた人間。これがリクルートの求める最高スペック」
というお話でした。

その理由を聞いたところ、
「企業でやっていくにはある程度アタマの良さは必要。ただ、大学生のアタマの良さなんて言ってもタカが知れているし、そんなものを振り回しても企業ではやっていけない。アタマの良さ、プラスアルファがいる。その意味では、難しい試験クリアして東大に入ったにもかかわらず、ボート部に入ったり、長距離走やっている連中って、『地アタマがいいのに、単純作業の繰り返しもできる』という、ある意味、すごい才能を持っている。こういう“振り幅の大きい人間”こそ、リクルートは求めている」
とのこと。

この方ご自身は随分前にリクルートをお辞めになっており、したがって、今でも同社において上記のような採用基準があるかどうかはわかりませんが、話自体は、なるほど、と思わせる内容です。

社会を渡っていくには、もちろん最低限の知性は必要になります。

しかしながら、社会には理不尽なことがそこらじゅうに蔓延しております。

学生時代に獲得した机上の知識など何の役にも立ちません。

そもそも、世の中において本当に重要なことは、本には書いていないことがほとんどであり、やっていくうちに体で覚えるようなことばかりです。

「社会の理不尽なことに遭遇する度に、いちいち立ち止まって考えてしまう」
という姿勢では、企業という社会に適応できません。

その意味では、
「がむしゃらに勉強して東大に入学しておきながら、大学に入ったら、一転、これとは真逆の、『ひたすらボートを漕ぎ続ける生活』や、『ひたすら長距離を走り続ける生活』にシフトし、これを4年間、嬉々として続けられる」
という連中の柔軟性や適応能力の高さは、尋常ではありません。

その意味では、一見乱暴でいい加減に見える上記のリクルートの採用基準は、企業として採るべき採用戦略の本質をまったく外していません。

会社の仕事というものは、企業毎に大きく異なりますし、部署によってもまったく違います。

「会社でどういう仕事をするか」
ということは、市販の本をみても書いていませんし、仕事のマニュアルなど整備していない会社もザラにあります。

もちろん大学に行っても、例えば
「三菱商事生活産業グループ繊維本部・仕事概論Ⅰ」
なんて講座はあるはずもなく、学校では仕事のやり方など一切学べません。

その意味では、
「中途半端にアタマがよく、中途半端な知識があり、自分の乏しい経験や狭い常識で、物事を考えてしまう人間」
は、企業にとって有害無益なのです。

むしろ、ある程度の知能と要領があることは前提として、
「どんな環境における、どんな業務であっても、まずはやってみて、体で覚えて行き、しかも、これを楽しく取り組める」
という適応力の高さこそが、企業の仕事を遂行する上で重要な資質となります。

したがって、企業として、人材を採用するにあたっては、
「(最低限の)知能や要領を測定する」
という意味で学歴もそれなりの指標となり得ますが、学歴だけを頼りに採用を決定するのはあまりにも危険であり、適応性・柔軟性こそをきちんと評価すべき、と考えられるのです。

当然ながら、この現状は、
採用する側、すなわち企業側の思惑と、
採用される側、すなわち新卒者や中途採用を志す者の思惑の間に、
重篤な乖離をもたらします。

そして、そのことが、労務トラブルや労務紛争となって出現する萌芽を形成するのです。

初出:『筆鋒鋭利』No.057、「ポリスマガジン」誌、2012年5月号(2012年5月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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