00737_企業実体論:法的三段論法の小前提たる企業実体

法務の仕事であれ他部署の仕事であれ、仕事とは、頭脳や体を使って
「対象」
に働きかけ、
「対象」
にとって有用なものを創りだして提供し、それによって
「対象」
から賃金を得る活動をいいます。

そして、法務担当者も含め企業人については、
「奉仕対象」
となっているのが、企業ということになります。

仕事を通じて奉仕する対象である
「企業」
ですが、
「営利を目的として計画的・組織的に活動する経済主体」
と定義されています。

日本においては、企業のほとんどは会社組織となっており、また、会社組織の大半は株式会社の形態を取っています。

したがって、ここでは、
「企業とは概ね株式会社のことを指す」
という前提の下、企業実体について述べてまいります。

1 企業の特徴

では、企業すなわち株式会社は、どのような特徴をもっているのでしょうか。

株式会社は、通常の人間と違って、姿・形がありません。

「株式会社は法人である」
などといわれますが、法人とは、自然人(我々通常の人間)とは異なる、
「バーチャル(仮想上の)人間」
です。

法人には、人の集合体(社団法人)と財産の集合体(財団法人)の2種がありますが、いずれも、
「自然人ではないものの、財産的基礎があるので取引社会に参加させても、自然人と同様に取引失敗の責任を負わせることが可能である」
という特徴があります。

そこで、これら人の集まり(社団)や財産のカタマリ(財産)について、一定の要件を備えたものを
「本来の人(ヒト)とは異なるが、“法”律上、“人”と同等に扱ってやろう」
とし、
「“法人”」
として扱うこととしたのです。

2 企業の生態その1・意思決定

次に、企業の生態を見てまいります。

まず、企業は、自然人と違い、それ自体意思をもたない存在ですので、適当な方法で意思を決定し、また、その決定した意思の内容を誰か適当な自然人(代表者)を通じて
「法人の意思」
として表明してもらわなければなりません。

無論、法人の代表者を誰にするか、ということについても適当な方法で決定しておかなければなりません。

このように、企業においては、代表者を決めたり、その意思内容を決めたり、という活動が必要になります。

企業のこのような生態は、毎年6月末頃、多く観察できます。

株式を公開している株式会社(いわゆる上場企業)は、毎年3月末に決算期を迎え、その3ヶ月以内に定時株主総会を開催します。

「株主総会において企業は何をしているか」
というと、企業の方針を決定し、当該方針を実施する人間(取締役)を選出しているのです。

企業のオーナーである株主全体の方向性が一致していれば問題ないのですが、
総会を撹乱させることを目的とした特殊な株主の方(総会実務の世界では「特殊株主」と呼ばれますが、日常用語でいう「総会屋」の方です)や、
“ホニャララファンド”や“ホニャララパートナーズ”のように
「総会で元気よく発言される株主の方」
がいらっしゃる会社においては、このプロセスでモメることになります。

そして、企業のこのような生態に関連・派生して、モメ事に対応するお仕事が必要になります。

すなわち、企業においては、企業の意思決定が円滑に行われるようにするために様々な仕事をしていく部署が必要になりますが、多くの企業では
「総務部」
というところがその種の仕事全般を担っています。

昭和や平成初期のころは、
「企業の意思決定が円滑に行われるようにする」ために総会屋にお金を渡したりする総務部の方もいらっしゃったりしましたが、これはご法度とされており、たまにバレて逮捕されたりすることがあったようです。

3 企業の生態その2・経営資源の調達と活用

経営の基本方針やこれを実現する代表者や執行者が決まって、内部統治体制(ガバナンス)が整った企業は、次の段階として、経営資源を調達し、あるいは調達した経営資源を活用する、という活動に移行します。

ここにいう経営資源とは、よくいわれる、ヒト(労働力)・モノ(設備や原材料)・カネ(資金)のほか、第四の経営資源といわれるチエ(技術・情報・ブランド)が挙げられます。

すなわち、企業は、資本を募ったり融資を得たりしながら資金を調達し、集めた資金で労働者を雇い入れたり設備や原材料を購入し、これらを活用して製品や商品を作り出したりサービス提供体制を整えたりします。

さらに、研究開発や情報収集を通じ、技術、ノウハウやブランドを創造・確立するとともに、企業経営の様々な局面でこれらを活用していきます。

このように、企業は、さまざまな経営資源を調達・活用しながら、製品・商品やサービス提供体制という形で、企業内部に付加価値を創出し、蓄積していくことになります。

ただ、
「付加価値を創出し、企業内部に蓄積する」
というだけでは企業活動としては不完全といえます。

企業は、次の段階として、自己の内部に蓄積した付加価値をキャッシュに転化させるための活動を行うことになります。

4 企業の生態その3・営業活動

「自己の内部に蓄積した付加価値をキャッシュに転化させる」
という企業の生態ないし活動は、一般的に営業活動と呼ばれます。

なお、会計の世界では、
「営業活動によって、企業内部で格納されている商品在庫やサービス提供体制が、キャッシュに変わっていくプロセス」

「収益の実現」
と定義したりします。

営業活動によって、
「商品等がカネに転化し、そのカネが再び、経営資源として活用される」
というサイクルが生まれますが、この循環的な生態を繰り返すことにより、企業は継続して発展していくことになるのです。

ところで、営業活動は、営業ターゲットの属性によって、B2BとB2Cの2種に分類されます。

B2Bとは、“Business to Business”の略称であり、企業間取引、あるいはコーポレートセールス(ホールセール)を指します。

これに対して、B2Cとは、“Business to Consumer”の略称であり、消費者向営業、あるいはコンシューマーセールス(リテール)を指します。

このような分類がなされるのは、上記2種の営業は、採用される戦略・戦術も、活動の上で服すべき規制も、まったく異なることに基づきます。

すなわち、B2B営業においては、
「潜在顧客基盤が少ない反面、取引規模は大きく、また緻密で論理的な購買行動を取る顧客に対する活動」
という特徴があり、このような特徴に適合した戦略・戦術が採用されることになります。

また、規制面では、B2B営業においては企業間の反競争行為(競争阻害行為)を禁止する独占禁止法が目を光らせることになります。

他方、B2C営業においては、
「低廉な取引価格と、感情的で衝動的な購買決定をする不特定多数の顧客」
を前提とした戦略・戦術(マスマーケティング)が採用され、また、規制面では、消費者契約法や特定商取引法に代表される消費者保護規制が働くことになります。

5 企業の生態その4・決算、会計報告及び納税

企業は、以上のように、
「ヒト・モノ・カネ・チエという経営資源を調達・活用して商品等といった形で内部に付加価値を創出・蓄積し、これら付加価値を営業活動によってカネに転化させ、さらに転化したカネを再び経営資源として活用する」
という循環的な生態を永遠に続けて成長を遂げていきます。

とはいえ、以上のようなプロセスが
「途切れることなく、ダラダラ続く」
というわけではありません。

企業の活動は一定の期間毎に区切られ、その活動内容が会計的に記録され、整理されていきます(期間損益計算)。

このような計算の結果は、経営成績(P/L)・財政状態(B/S)という二元的切り口で表現されて、投資家や債権者に整理して報告されるとともに、産み出された利益の中から一定割合の税金を税務当局に納める、ということが行われます。

このように、
「一定の期間毎にその活動の成果が整理され、利害関係者(ステークホールダーズ)に報告する」
というのも企業の特徴的な生態といえます。 

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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