製造現場のマネジメント課題として
「性悪説及びリスク・アプローチを徹底した事故予防マネジメント」
のモデルを構築・実施することが重要ですが、OEMなどの方法で、製造を社外の会社等に委託している場合の品質管理マネジメントについても同様のモデルで関係構築をすることになります。
かなり前になりますが、北海道の食品加工会社が、牛肉コロッケに豚肉や羊肉入れたり、賞味期限切れたコロッケをもう一回作り直したり無茶苦茶なことをしていたことがニュースになったことがあります。
また、食品加工業界では、契約書が一切なく、伝票だけで巨額の取引をしているケースも多いと聞きます。
信頼関係重視といえば聞こえはいいですが、
「信頼関係重視」
という言い方自体、たいていは、
「面倒くさい法務管理をサボる言い訳」
です。
各取引の契約書の整備など必要な法務管理を
「面倒くさい」
「法務部を抱えるお金なんてない」
「トラブルになっているわけでもないのに弁護士費用払うなんてばかばかしい」
ということで後回しにしておくと、あとで必ず、ズルをする取引相手に足をすくわれることになります。
民商事法の世界では、契約自由の原則という理屈があります。
これは、どのような契約を締結するかは当事者間の自由であり、公序良俗に違反しない限り、裁判官が理解して判決を書ける程度に明確な条項を取り決めてあれば、どんな契約上条項も法的に有効なものとして取り扱う、という原則です。
逆に、契約相手を漫然と信頼して、本来契約内容にしておくべきことを契約内容として明記せず、
「いざとなったら誠実に協議して対応しましょう」
といった法的に無意味な取決めで誤魔化すことも自由です。
無論、その場合、契約相手方に対して
「書かれざることは、どんなに道義的にひどいことをやろうが、法的には問題なし」
という主張を許すことになります。
要するに、
「契約相手にやられて困ることがあれば、性悪説に立って、すべて契約条件として事前に明記しておき、法的に縛っておけ。逆に、この種の管理を面倒くさがって、契約を曖昧にしたのであれば、ひどいことをされても文句はいうな」
というのが契約自由の原則の正しい帰結です。
すなわち、契約自由の原則は、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
も保障しております。
そして、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」を存分に満喫された方
には、自己責任の帰結として、
「取り決めをしなかったことによる過酷なリスクを背負わされる」
という過酷な法的帰結が待っています。
モノのマネジメント(製造・調達・廃棄マネジメント)における
「リスクアプローチ(性悪説)」
は非常に重要性ですが、これは何も自社製造だけでなく、外部へ製造委託をしている場合も同様にあてはまります。
社外の第三者に、企業の生命線とも言うべき商品の製造を委託する場合、当該委託先を
「信頼に足り得る取引先」
としてではなく、
「契約書で縛っておかないと、あらゆる悪さをする危険のある、信頼できない奴」
とした上で、性悪説に立った契約書を取り交わし、厳格な法的管理を実行することが求められます。
例えば、食品加工を社外の業者に委託する場合、
輸入肉や指定外の肉を排除する等の使用食材の厳格な指定、
食材仕入先についての調査義務、
加工にあたって使用する機械の洗浄や清掃の頻度、
加工人員の除菌を保持すべき体制の確保、
加工にあたって使用する水の指定、
委託先の監査権限、
偽装があった場合のペナルティ条項等、
「委託先をとことん信頼せず、信頼を裏切る行動に出たら即座にかつ徹底的に当該行動に対する代償を払わせるような各種契約条項」
を入れ込んでおくべきなのです。
契約書を厳格な形で取り交わすことにより、委託先もナメた行動をしなくなり、相手先の不正は予備や未遂の段階で止めさせることが可能となり、結果として品質の維持に貢献します。
前述のような本来遵守して当然の契約条項を
「そんなの厳しいからヤだ」
とか言って忌避するような委託先は、
「ズルをしても文句を言わないで見逃してくれ」
ということを求めているのと同じわけですから、とっと契約を解消し、信頼に足る別の委託先を探した方がいい、ということになります。
初出:『筆鋒鋭利』No.069、「ポリスマガジン」誌、2013年5月号(2013年5月20日発売)
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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