00897_正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える4:現場参謀(管理系エリート、戦術担当、作業計画策定・統括)

戦略と戦術という概念区分があります。

戦略とは
「大局を俯瞰した上で考案した目的達成するためのシナリオ・筋道」、
これに対して戦術とは
「戦略を実施に移すための具体的方策や実現方法」
といわれています。

私なりの言い方ですが、戦略とは、
「参謀による目標案の設定」と「責任者による決断・決定」、
「参謀による目標と現実の間の課題やリスクの抽出と整理」と「責任者による裁可・承認」、
「課題やリスクを克服するための選択肢の抽出とプロコン評価」と「責任者による行動上の選択決定」
といったプロセスを経由して策定された
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)」
です。

そして、この
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)」
をより卑近で現実的なものにブレークダウンし、
「実施部隊を組成・統括しつつ現実に実現するための実務遂行計画を策定する」
という営みが観念されます。

この
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)を、組成・統括しつつ現実に実現するための実務遂行」
を戦術と定義できるかと思います。

そして、戦術、すなわち
「組織として、チームとしての行動計画(資源動員計画)を、組成・統括しつつ現実に実現するための実務遂行」
は、
「行動計画(資源動員計画)」
さえチームメンバーに渡しておけば、ほっといても勝手に、自律的に、実現して、形となって、成果となって出現する、
と考えるのはあまりに幼稚で無知です。

実際は、
「行動計画(資源動員計画)」
をさらに実施するために、細やかな
「段取り、責任分担、賞罰基準(ゲームプラン)、中間目標(マイルストン)」
といった
「作業計画」
がないと、チームメンバーは戸惑うばかりです。

小学生の未経験者にサッカーをさせると、皆、規律も秩序も役割分担もなく、烏合の衆となって、それぞれ得手勝手に、無秩序な団子状態でボールを追いかけはじめます。

他方で、プロサッカーチームやワールドカップ上位ランクのナショナルチームのサッカーをみてみると、規律と秩序と役割分担が決まっていて、組織だってチームサッカーを展開します。

このように、単に
「とにかく目の前の敵に勝て。そのための資金と人員と環境はこれだ」
という雑駁としたプラン(資源動員計画)だけでは、組織だったチームプレイを遂行することはできませんし、もちろん勝つことや目標達成は不可能です。

放置しておけば不可避的に
「烏合の衆」
と化してしまうヒトの集まりに、規律と秩序と役割分担を与えて、組織だって計画的に、段取り良く、チームプレイを展開するための算段や目論見が必要となります。

そして、この
「規律と秩序と役割分担を与えて、組織だって計画的に、段取り良く、チームプレイを展開するための算段や目論見」
を策定するインテリジェントスタッフ(オペレーションを担う作戦参謀・戦術参謀)が、戦略(ストラテジー)レベルの参謀とは別に必要となります。

こちらは、
「資源の把握と動員計画といった『エコノミクス』によるゲームプラン策定」
という
「巨視的・大局的・俯瞰的な知見を要求される人的資源」
というより、
「現場の状況を踏まえた局所的な最適化を図れる現場経験」

「極めて卑近で緻密で具体的な実務・実践上の知見」
を具備した
「実務的・実際的・ミクロ的な情報運用が要求される人的資源」
です。

言ってしまえば、
「ビジョンはないがリアリティがあり、構想力や外部知見は乏しいが計算・管理・事務・実務に長けた、頭の回転が早く、物事をミエル化・カタチ化・コトバ化・文書化・現実化できる実践知性であり、すばしっこく、目先が効くが、陳腐化されたつまんない事務屋であり、取替可能な、個性がない、コモディティ的な実務屋であり、管理系エリート」
です。

比喩的にはなりますが、経営者にもなれないし、経営企画や戦略部署や営業マンにもなれないが、経理や財務や総務なら務まる、クリアティビティはないものの、堅実で実直で、ソロバンと文書と事務に長け、管理と実務ができる、つまんない優等生、といった人材です。

敷衍しますと、参謀が描き、リーダーが選択し、組織としてチームとしてぶち上げた
「ビジョン」「目標」「戦略」
を達成するために、現実的にどのような資源がいつまでにどのくらい必要で、それをどのような段取りと順序で動員し、どのような中間目標(マイルストン)を設定し、といったことをクールでリアルに計算し、
「プラン」
にコトバと数字と根拠を与え、現実化していく役割を担う人材です。

このような現場参謀(管理系エリート)ですが、要求スペックとして、
「どんなに有能でも、こんなヤツは現場参謀としてはNG」
という消極的要素ともいうべきファクターがあります。

「どんなに有能でも、こんなヤツは現場参謀としてはNG」
となる要素の1つは、
「分をわきまえていない」こと。

現場参謀(管理系エリート)は、どんなにハイスペックで、優秀・有能そうで、高い学歴で、高いスーツを着て、高いネクタイをぶら下げていて、高い眼鏡をかけていて、頭と毛並みが良さそうでも、所詮、替えの効く、 コモディティです。

戦術を積み重ねても戦略にはなり得ません。

管理系エリートはどんなプロジェクト実践においても必要ですが、この種の優等生が集まっただけでは、単に
「上をみて(お上や権威にしたがう)、横をみて(業界慣習にしたがう)、後ろを振り返る(過去の先例にしたがう)」
といった、今までの延長線上の目標しか創造できず、結果、
「正解も定石も不明なプロジェクトを推進する」
というプロジェクトは失敗に終わります。

その意味では、どんなに経歴が立派でお利口そうにみえても、所詮
「ハイスペック・コモディティ」
「視野の狭い、実務バカ」
という存在に過ぎないことを自覚させ、分際を弁えさせ、現場での作戦実施や実務や事務的実現部分はさておき、全体な戦略にかかわる、
「ゲーム環境の認知・解釈、
類似事例や先行事例、相場観情報の取材・収集・整理、
ゴール設定に関する選択肢の抽出・整理、
ゴール(to be)と現状(as is)の間に携わる課題の抽出・整理、
課題解決のために動員しうる資源の整理・把握、
課題解決のための選択肢の抽出・整理、
各選択肢のプロコン(長短所)分析、
といった判断前提を情報を整理し、判断を行うトップに上程する」
という役割は担わせないことです。

この種の戦略立案・策定という営みは、
思考の柔軟性、
新規探索姓、
経験の開放性、
健全な自己否定ができる謙虚な自己評価、
といった心因的なスペックと無縁ではなく、経験上の蓋然性でいうと、
「ハイスペック・コモディティ」
「視野の狭い、実務バカ」
といったタイプの管理系エリートはいずれかあるいはすべてが致命的に欠如することが多いからです。

第二次世界大戦で戦略立案遂行した大本営の参謀陣が壊滅的な失敗をしでかしたのも、上記のような知性面や情緒面における致命的欠陥が原因と推察されるところです。

また、
「どんなに有能でも、こんなヤツは現場参謀としてはNG」となる要素の2つ目は、
「分をわきまえていない」
ことと関連しますが、
「困ったヤツや面倒や不安を抱えているヤツ」
です。

カネに困っていたり、仕事に困っていたり、倫理面・情緒面で不安を抱えたエリートは、チームに大きな波乱をもたらすので、要注意です。

この種のスペック面で欠陥のあるエリートは、
「優秀な知性をもった銀行強盗」
に豹変する可能性があります。

番頭が謀反を起こして組織を撹乱したり、瓦解させるパターンはよくあります。

以上の消極要素がなく、立ち位置と分際を弁えて、不安要素もなく、健全で円満なメンタルをもち、ソロバンと事務に長けた、実直な番頭は、 正解も定石も不明なプロジェクトを推進するためのチーム体制を整える上では不可欠の存在です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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