00902_企業法務ケーススタディ(No.0230):解雇

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2008年12月号(11月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二の巻(第2回)「解雇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 経営企画室 担当責任者

解雇:
社長が同席する商談において、担当責任者が1時間以上も遅刻したことから、商談が流れる事態となりました。
寝坊・遅刻の常習犯であるその社員の度重なる失態に、怒り心頭の脇甘社長。
そこで、執高法務部長は、
「その社員はすぐに解雇し、明日以降、わが社には来させません」
といいました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:雇用と婚姻は同じ
企業がヒトを採用するのに規制はありませんが、解雇は簡単にはできません。
「結婚は自由、離婚は不自由」
になぞらえると、
「採用は自由、解雇は不自由」
という言葉があてはまるほど、解雇は厳しく制限されており、ビジネス感覚との大きなズレが存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:解雇の失敗
正しい解雇とは
「法的に正しい理由に基づき、法的に正しい手続を踏んだ解雇」
のことを指します。
法的に疑わしい解雇を強引に行うと、仮処分、労働審判、本案訴訟という裁判沙汰に巻き込まれるほか、労働組合から団体交渉の申入れがなされるなどして厄介なトラブルに巻き込まれます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:法的に正しい理由に基づく解雇
高知放送事件(最高裁1977年1月31日)では、
「2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごし、定時ラジオニュースの放送事故を起こし、放送が10分間ないし5分間中断されることとなり、2度目の放送事故では、直ちに上司に報告せず、事故報告を提出した際に事実と異なる報告をした」
アナウンサーに対する普通解雇について、最高裁は無効としました。
つまり、
「通常の債務不履行事由(遅刻、欠勤、能力不足、仕事納期もれ、ミス)だけでは解雇できない」
という法常識があるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:法的に正しい手続を踏んだ解雇
経歴詐称や横領・背任等を行って懲戒解雇をするような場合でも、企業側は解雇予告をするか、予告手当として少なくとも解雇通知から1ヶ月分の給与を支払うべき義務が生じます。
労働基準監督署の事前認定があれば予告なしの即時解雇も可能ですが、実際、認定が出るまでには1週間から10日かかることもあり、準備をしている間に1ヶ月などすぐにきてしまいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:自発的に辞めてもらう場合には解雇規制は適用されない
労働者側から
「すみません、迷惑かけたので、辞めます」
という形で、自発的に雇用契約を解消する場合は、労働者保護の要請は働かず、非常識な解雇理由も面倒な手続も一切不要になります。

助言のポイント
1.雇用と結婚は同じ。結婚は自由だが離婚は不自由、採用は自由だが解雇は不自由。採用と結婚は同じく慎重に。
2.違法な解雇をしたら、仮処分、労働審判、本案訴訟という訴訟沙汰に巻き込まれるほか、労働組合との団体交渉事件に発展し、解雇を撤回させられ、大恥をかく羽目になる。
3.解雇には理由が必要。最高裁は、遅刻、欠勤、能力不足、仕事納期もれ、ミス程度の理由では、解雇は認めない。
4. 解雇には1ヶ月の猶予期間が必要。どんな非違行為をした人間を解雇する場合であっても、労働基準監督署の除外認定を得ない限り、即時解雇は違法。
5.解雇相当であっても従業員が自主的に退職する場合には解雇規制が及ばない。どんな不始末をした人間に対してであれ「馘首(かくしゅ)より切腹」の方が安全。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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