00907_企業法務トレンド今昔(前世紀と今世紀)1:前世紀と今世紀にかけて起きた、「企業不祥事トレンド」の大転換

1 前世紀における企業不祥事

前世紀、といっても1990年代の話ですが、その当時、今では企業経営者の間で盛んに話題にされる
「企業法務」

「法令遵守」
といったテーマは、さほど重要視されていませんでした。

では、この時代に企業不祥事がなかったか、といえばそうではありません。

この当時も、総会屋に対する利益供与や入札談合、さらには証券会社の損失補填や金融機関による損失飛ばしや損失隠し等、今と同じく企業不祥事の話題が連日新聞紙上を賑わせていました。

ところが、21世紀に入ると、企業不祥事は、質や傾向の点において大きな変化を遂げます。

2 「シェアホルダーズ(株主・投資家)に対する背信」から「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)に対する背信」ヘ

1990年代(前世紀)の企業不祥事といえば、総会屋に対する利益供与等
「シェアホルダーズ(株主・投資家)を裏切るタイプ」
のものでしたが、21世紀に入ると、
「食品表示偽装」
「リコール隠し」
「耐震強度偽装」等
消費者や取引先や社会といった企業に関わる利害関係者すべて(ステークホルダーズ)を裏切るタイプの企業不祥事が増えるようになりました。

1990年代(前世紀)においては、企業が倒産するといえば財務上の破綻が主たる原因でした。

総会屋に対する利益供与や談合等の不祥事といっても、ステークホルダーズの一部でしかないシェアホルダーズヘの影響(それも間接的な影響)に限定されており、
「企業不祥事“のみ”が原因で、企業が倒産する」
ということはまずありませんでした。

ところが、21世紀に入ると、前述のとおり、企業不祥事の種類が製品や商品の偽装等ステークホルダーズすべてを裏切るものが多くなったためか、不祥事は直接収益の悪化につながり、企業不祥事が原因で企業が倒産したり廃業したりする例が増加してきたのです。

3 不祥事インパクト

では、
「シェアホルダーズ(株主・投資家)に対する背信」型不祥事

「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)に対する背信」型不祥事
とでは、どちらが 企業の経営ないし存続に与えるインパクトは大きいでしょうか。

これは、明らかに、
「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)に対する背信」型不祥事
のインパクトの方が大きいです。

すなわち、株主総会でインチキした、総会屋にカネを渡した、といった
「シェアホルダーズ(株主・投資家)に対する背信」型不祥事
は、事件としては大きく取り沙汰されるかもしれませんが、実際に影響を受けるのは、自己責任で投資した株主くらいで、財務的に痛むのも、貸借対照表の左下の資本の部が少し痛む程度です。

他方で、例えば、
「食品表示偽装」
「リコール隠し」
「耐震強度偽装」
「品質検査不正」
といった、
顧客を筆頭とする
「ステークホルダーズ(企業を取り巻く利害関係者)」
に対する背信となるような不祥事が起きた場合、いきなり誰も買わなくなります。

そして、売上が極度に落ちます。

損益計算書のトップラインが劇的に落ちますので、大きな損失が発生し、企業の内部留保を凄まじい勢いで食いつぶし、企業は一気に傾きます。

このように、今世紀と前世紀の不祥事のトレンドの変化は、不祥事の重篤性や重大性の変化を意味するのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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