00912_企業法務ケーススタディ(No.0234):合弁契約

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年4月号(3月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六の巻(第6回)「合弁契約」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
合弁パートナー:ハイエナジーコーポレーション(「ハイエナ社」)
合弁会社:ネット動画配信事業会社のユナイテッド・ルーセント・インターナショナル社(「ユルイ社」)
株式譲渡先:ダボス・ハイテック・ゼネラル・コーポレーション(「ダボハゼ社」)

合弁契約:
当社がハイエナ社と合弁で立ち上げたユルイ社を、ハイエナ社はダボハゼ社に売り飛ばしました。
ハイエナ社との合弁契約にはユルイ社の株式譲渡制限はつけていたものの、 パートナーの了解ない株式譲渡を禁じる条項が、巧妙に抜かれていたことに気づかず、結果、ユルイ社の取締役会で、ダボハゼ社への株式譲渡承認が押し切られる形で決議されてしまったのです。
そして、取締役全員の任期切れを前にして、ダボハゼ社から、
「51%の株式を譲り受けたので、今後は、取締役員は全てこちらが選任したい」
という申し入れがきたというわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:合弁事業
合弁事業(“Joint Venture”略して「ジョイベン」などと呼ばれる)とは、2社以上の会社が共同で経営資源を持ち寄り、1つの事業を立ち上げることをいいます。
企業が合弁事業を行うにはいくつか理由がありますが、その大きな1つとしては、リスクの分散が挙げられます。
特に、規模が大きく新しい事業を立ち上げようとする場合や、自分の不得手な事業分野・土地勘のない分野で勝負する場合や、進出事業分野に適合した経営資源が自分の手元になく新たに調達しなければならない場合は、事業の成功の確度を上げる算段のもと、リスクを分散して、共同事業をやろうというわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:合弁会社・合弁契約
一般的に用いられる合弁事業の運営主体は、株式会社です。
合弁事業を行う会社(パートナー企業)それぞれが、合意した割合での出資を行うことによって新たな株式会社(合弁会社)を設立し、出資者の間で出資比率や企業運営の具体的方法(どの会社が何人の役員を送り込むか)等を取り決め、
「合弁契約」
として書面化して、事業を開始します。
合弁契約においては、事業の赤字が続いた場合や、出資企業が脱退したくなった場合の処置や、企業運営において意見の対立が生じた場合の打開方法等、不愉快な事態をより多く想定し、その際の解決のルールをきちんと取り決めておくことが重要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:マイノリティーシェアで投資する企業は契約で自衛すべし
一般論としては
「合弁契約が曖昧なものではダメ」
といえますが、マジョリティーシェア(51%超の株式割合)を有するパートナーは、合弁契約が雑な内容であることを気に病む必要はありません。
逆にいえば、少数派株主側としては、合弁をはじめる前に、
「株式を無断で譲渡することの禁止」
「株式を譲渡する場合における先買権(First Refusal Right)」
「違反の場合のペナルティ」
等といった措置を、合弁契約においてきっちりと定めるべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:合弁で失敗しないための知恵
合弁事業体の組織形態の選択からよく検討すべきです。
組合形態であれば、組合持ち分の譲渡は他の組合員の同意なしに行うことは困難ですし、単純な多数決原理ではなく、十分な議論を経た合意形成が重んじられます。
合同会社であれば、出資者は株式会社同様、有限責任しか負いませんが、法人統治は組合のような閉鎖的規律で運営されますし、また、出資者の交替には全出資者の了解を要し、加えて、合同会社の業務執行権は原則として全出資者が有します。
株式会社を選択する場合でも、まずはマジョリティーシェアを要求すべきですし、それを取れない場合は、合弁契約で自らの権益を具体化し、マジョリティーシェアを掌握したパートナー企業の横暴を許さないようにしておくべきですし、さらに、合弁会社が自らの関与なしでは身動きできないようにする方法を考えるべきです。

助言のポイント
1.合弁事業においては、たとえ「成功を夢見て仲良く一緒にやっていこうというときに、水を差すような無粋なことをするな」といわれても、きちんとしたリスクシナリオを想定して、契約内容に盛り込んでおくこと。
2.合弁契約には「株式を無断で譲渡することの禁止」「株式を譲渡する場合における先買権」「違反の場合のペナルティ」等不愉快な状況を見越した内容とすること。
3.合弁事業体において組織形態を選択する際、株式会社にこだわらず、組合や合同会社も検討してみる 。
4.合弁事業体として株式会社を設立する場合、必ずマジョリティーシェアをとっておく 。仮に、マイノリティーシェアしか保有できないまま、後日トラブルになった場合、圧倒的に不利な立場になることを想定して、シビアな契約内容にしておくことは必須。
5.「商流の管理」「商標権の保全」といった合弁契約外で合弁会社を縛り上げて、間接的に合弁事業を支配する方法も検討する。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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