00921_企業法務ケーススタディ(No.0241):善管注意義務とビジネス・ジャッジメント・ルール

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年12月号(11月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十三の巻(第13回)「善管注意義務とビジネス・ジャッジメント・ルール」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘どつぼトレーディング株式会社 社長 脇甘 抜蹴(わきあま ぬける、脇甘満寿留の弟)

相手方:
ドツボインベスターズ証券会社

善管注意義務とビジネス・ジャッジメント・ルール:
ドツボインベスターズ証券との合弁で設立した脇甘どつぼトレーディング社の社長が、ドツボインベスターズ証券会社に厳しい経営責任追及を受けました。
脇甘どつぼトレーディング社長は、業績が悪化した会社のためを思って一発勝負をかけようと、会社の全財産を証拠金として商品先物の信用取引を行ったところ、大損し、相手方に刑事告訴されました。
それを聞いた法務部長は、
「そもそも会社の経営において損得は日常茶飯事のはず、そんなことで逮捕されていたら世の中の社長はいくらクビがあっても足りません。
虚偽告訴で逆に訴えるべきです」
と、主張します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:取締役の経営責任
会社法は、取締役に対し
「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」(会社法355条)
義務を課しています。
さらに、株主が会社に対し取締役の責任を追及するよう求めることができる旨の規定を設けたり(会社法847条)、
「役員等(経営陣等)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者(株主等)に生じた損害を賠償する責任を負う」(会社法429条1項)
旨の規定を設けるなどして、株主を手厚く保護しています。
もちろん、法文上、取締役が株主等に対し直接の責任を負担するのは
「悪意又は重大な過失があったとき」
に限定されますが、これでは、日本中から取締役のなり手がいなくなってしまいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ビジネス・ジャッジメントルール
「株主のために大きな利益を実現するためにはリスクテイクしなければならないが、失敗したら必ず株主に対する責任をとらなければならないとするのはあまりに酷」
といったジレンマを解消すべく考案されたのが
「ビジネス・ジャッジメントルール(経営判断の原則)」
です。
「取締役が業務執行に関する意思決定の際に適切な情報収集と適切な意思決定プロセスを経たと判断されるときには、当該業務執行が法令の範囲内である限り、結果として会社に損害が発生したとしても善管注意義務違反に問わない」
とする法理原則です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:会社財産を危うくする罪
あまり知られていないことですが、会社法は取締役等が
「株式会社の目的の範囲外において、投機取引のために株式会社の財産を処分した」
場合には、実際に
「会社の財産」
に損害が生じたか否かを問わず、
「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(会社法963条)
旨の極めて厳しい規定を設けています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:法令違反行為に経営裁量が働く余地はない
いかにビジネス・ジャッジメント・ルールがあるといっても、法令違反行為には経営裁量が働く余地はなく、免責が一切なされません。
したがって、取締役等が、投機取引を実施する際に為替取引や商品先物取引の複数の信頼性ある専門家の意見といった適切な情報を収集し、かつ取締役会決議といった適切な意思決定プロセスを経ていたとしても、明確な法令違反を構成する以上、ビジネス・ジャッジメント・ルールが働く余地はなく、これに関与した取締役が罪を免れることは、ほぼ不可能であるということになります。
本設例の場合、
「会社財産を危うくする罪」
の構成要件に該当しかねませんので、相手方との間で早急に示談を進め、平身低頭誠意をつくして和解をし、刑事告訴を取り下げてもらうようにすべき案件です。

助言のポイント
1.株主が拠出した財産のプロとして運用し、利益の適正な実現を付託された取締役には、経営のプロとして高度な管理責任(忠実義務や善管注意義務)が課せられていることを心得よう。
2.取締役等の責任を広く免責・軽減する法理(ビジネス・ジャッジメントルール)があるといっても、これが適用されるのは、あくまで法令の範囲内の行為に限定されている。
3.すなわち、法令違反行為には一切経営裁量が認められないと認識しよう。したがって、たとえ会社のためを思った行為であっても、いささかなりとも法に触れる行為が含まれれば、問答無用で責任追及されることになる。
4.為替取引や商品先物取引といった投機取引を会社の目的の範囲外において行う場合、刑事罰が課せられるリスクがあることに注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸
著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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