00924_企業法務ケーススタディ(No.0244):職務発明

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十六の巻(第16回)「職務発明」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘グループ 小丸(コマル)科学株式会社 技術開発部長

職務発明:
コマル科学の一員が、取得した特許を携えて転職しようとしています。
そこで、相場以上の金額を提示して、その従業員から特許権を買い取ろうとしました。
ところが、相手は、
「職務発明に関わる特許権を会社に移転する規定はない。
いくらカネを積んでも特許は会社のものにならない」
と、いいます。
裁判を起こせば、特許は当社のものになるのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特許法における企業従業員による発明に対する考え方
特許法は、特許を受ける権利を
「発明者」
に付与するとしています(特許法29条)。
法人が発明者となることはありません。
一方で、一定の要件を満たすような発明については、
「職務発明」
に該当するとし、企業等に相応のメリットが与えられることとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「職務発明」の概念と権利承継の定め
「職務発明」
という概念にあたるかどうかは、実質的に
「企業等の仕事として発明がなされた」
といえることが必要となります。
具体的な要件として、
1.企業等に雇用される従業員が
2.その業務の範囲内において行った発明で
3.現在または過去の職務に属する発明である必要があります(特許法35条1項)。
かつ、前もって職務発明規程等によって
「特許を受ける権利」

「特許権」
を承継させる旨が規定されていた場合、その企業等は当該発明を自分のモノにすることができるのです(特許法35条3項)。
あらかじめ権利承継の定めておかないと、通常の譲渡契約と同様に、発明者に権利移転をお願いすることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「発明者」は一体誰?
単に抽象的なアイディアを提供したにすぎなかったり、助言にとどまる場合であれば
「発明者」
とは認定されません。
すでに特許出願公開がなされていたときには、同様の発明は新規性がない等として拒絶されますから、特許権の移転登録請求等を検討することとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:権利が取れない場合は戦略で勝つ
特許の基幹技術だけでは事業として成立させることは困難です。
製品化し、商品として成熟したものにするまでには多くの技術課題を解決しなければなりません。
つまり、アイディアレベルの試作品と市場に出回る製品との間の大きなギャップを埋めるのもまた技術であり、そこには特許が生じる余地がたくさんあるわけです。
それら周辺技術について特許を取り尽くした場合には、基幹技術を独占する意味は喪失し、
「基幹技術の通常実施権」

「製品化・商品化のマイルストーン上にある応用技術や周辺技術についての独占権」
だけで、事実上当該分野における市場独占をすることが十分可能です。
企業側が、特許を自分のモノにできない場合は、このように外堀を埋めていく戦略を考えるべきです。

助言のポイント
1.まずは職務発明規程を見返そう。
2.従業員には何を研究しているのか日頃からノートにでもつけさせて、発明者が誰なのか、会社は常に把握し続けよう。
3.基幹技術の特許をおさえられても、まだ手段はある。製品化に至る周辺技術に何があるのか、想像力を働かせよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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