00926_企業法務ケーススタディ(No.0246):資本金5億円の片道切符

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十八の巻(第18回)「資本金五億円の片道切符」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
間夫太刀(マブダチ)興業
風雲色(フウウンショク)監査法人

相手方:
なし

資本金5億円の片道切符:
いよいよ資本金5億円の大会社になる、と大喜びの当社社長。
募集株式を引き受けてくれた知人が、会計監査人を紹介しようとしますが、当社には顧問税理士がいるから、と断るつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:資本金5億円以上は「大会社」
「資本金の額が大きい」=「利害関係者が多い」=「社会・経済に与える影響力が大きい」
という関係が成立し得るため、会社法は、資本金が5億円以上(あるいは負債が200億円以上)の会社を
「大会社」
と定義し、他の会社よりも厳しく
「ガバナンスや情報開示の強化義務」
1.会計監査人の設置義務
2.内部統制システムの決定義務
3.貸借対照表に加えて、損益計算書も公告する義務
4.清算中の監査役設置義務
5.監査役会または委員会の設置義務(※公開会社のみ)
6.連結計算書類の作成義務(※有価証券報告書提出会社のみ)
を負わせています。
会計監査人とは、公認会計士あるいは監査法人でなければなりません(会社法337条1項)。
実際には、大企業の複雑な経済活動の結果である決算書類を厳密に精査するのは大変な作業であり、その分、公認会計士や監査法人に支払うべき報酬額も非常に高額となります。
その上、会計監査人によって必要以上に厳格な解釈に基づいた会計処理上の
「あら探し」
が行われ、その対応等のため、さらに多大な時間やエネルギー、コストを要することもあります。
実際、会計処理や監査報酬を巡って監査法人とモメてしまい、監査契約解除の騒動に発展する例もあるほどです。
会計監査人を空席のまま放置しておくと
「会計監査人の設置義務」
違反として過料の制裁が課されますし、この種の違反の存在が将来、株式公開をする際に大きな足枷(あしかせ)となることもあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:後戻りは困難!? 戦場への片道切符
「減資」
には、
「会社財産を支払いのあてにしている会社債権者が関与できる手続(債権者保護手続)」
が必要とされます。
具体的には、原則として、官報公告や各債権者への個別催告が必要であり、所定の期間内に債権者から異議が出た場合には(減資をしても当該債権者への支払いに影響が生じるおそれがない場合を除く)、弁済や相当の担保の提供等の対応が義務づけられます。
債権者保護手続に重大な法律違反等があると、資本金の額の変更登記を受け付けてもらえなかったり、場合によっては、債権者から
「減資無効の訴え」
という訴訟を提起される可能性もあります。
実際問題としては、大口債権者である銀行の担当者は、そう簡単に減資に応じてくれません。
減資などしようものなら、ここぞとばかりに異議を出して全額弁済や担保提供等を求めてくるのは当然の道理でしょう。

助言のポイント
1.資本金5億円以上の企業は、会社法上の「大会社」に該当し、会計監査人の設置義務のほか、さまざまな負担を課されることになる。
2.「会計監査人の設置」とは、要するに「高額な監査報酬を支払って、わざわざ口やかましい専門家による決算書類のチェックを受ける」ということ。会社の経営に重い負担として、のしかかってくる。
3.「大会社としての負担に耐えられなくなったら減資すればよい」という安易な考えは禁物。減資には、原則として、債権者保護手続という高いハードルが待っている。簡単には戻れない「片道切符」だと心得よう。
4.資本金の額は、経営の根幹に影響する局面が少なくない。増資する際には、各方面の専門家や取引銀行等と十分に相談・検討し、戦略的に実行しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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