00928_企業法務ケーススタディ(No.0248):不動産流動化スキームの落とし穴その1 会計編

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十の巻(第20回)「不動産流動化スキームの落とし穴 ~その1会計篇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
不動産コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
証券取引等監視委員会

不動産流動化スキームの落とし穴その1 会計編:
不動産コンサルタントが、
「SPC(特別目的会社)を設立し、土地をSPCに売る。SPCは社債等を発行して投資家から資金を募る。投資家は土地に収益力があると見込めば投資をするから、銀行から借り入れするよりも有利な条件でカネ集めができる。地価が下がったタイミングで土地を買い戻せば、安い金利で資金調達したうえに土地を安く買い戻せる」
という、夢のような不動産流動化スキームを提案してきました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:オフバランス目的の不動産流動化スキーム流行の背景
企業経営の評価においては、貸借対照表(バランスシート)から
「総資産を幾ら保有していて、これを利用してどのくらいの利益を計上しているか」
という点(総資産回転率。売上高÷総資産で算出され、総資産をどのくらい効率的に活用しているかを示す指標とされる)が重要視されます。
分母の総資産の中に、活用されていない土地が多く含まれる場合、総資産回転率は向上しませんので、企業の成長のためには、活用されていない土地をお金に換え、投資を指向することになります。
しかし不動産は通常高額であり、単純に売却しようとしても、条件に見合った購入者を探すことは困難ですし、その不動産を担保として借入れを行おうとしても銀行等は、業績をまず念頭に入れますから、
「貸出利率は高めに設定しないと貸せない」
ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不動産流動化の基本構造
これを解決するために開発されたのが、
「不動産流動化スキーム」
で、基本構造は次のようになります。
1 不動産所有者(以下「オリジネーター」)は、所有している不動産を、自分とは法人格が異なる別法人であるSPC(特別目的会社)に売却する。
2 SPCは、不動産の購入資金とするために特定社債(「資産の流動化に関する法律」に規定される社債をいう)等を発行して、投資家から投資を募る。
これによって、不動産が証券化され、投資家の間で売買される(=流動化する)。
高額な不動産についても、小口の有価証券とすることで細分化すれば多額の投資を集めることが可能となる。
3 オリジネーターは、SPCと賃貸借契約を締結したり、SPCが資金集めに作った匿名組合に出資するなどして、引き続き売り払った不動産を利用する関係を維持することがある。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不動産流動化のメリット
不動産流動化スキームを採用する企業には次のようなメリットが生じるとされます。
1 格付けの低い企業であっても、低コストの資金調達が期待できる
2 小口化することで、広く浅く資金を集めることができる
3 財務指標が改善できる
このうち3に関しては、売却利益が実現でき、休眠していた不動産の活用という評価につながり、バランスシートの資産項目から不動産が消える(=オフ)こと(資産のオフバランス)によって、総資産利益率の改善を見込めます。
最終的には、以上の評価は実施企業の株価上昇となって現れるので、うまく導入できた企業はオイシイことずくめ、という目論見が想定されるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「5%ルール」
会計上のメリットを享受するためには、不動産の譲渡取引が
「見知らぬ第三者との間の取引」
が前提となり、認められる要件が定められています。
1 不動産が譲受人であるSPCに対して適正価格で譲渡されていること
2 当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人であるSPCを通じて他の者に移転していること
具体的には、当該不動産についてのリスク負担の金額を当該不動産の譲渡時の適正な価額で割った値(リスク負担割合)がおおむね5%の範囲内であること。
3 実質的な判断からも、不動産のリスクと経済価値のほとんどが譲受人であるSPCに移転していると判断されること
会計実体に沿わない有価証券報告書を作成した場合、金融商品取引法違反に基づく課徴金を支払うことになりかねず、株価は急落、経営陣は経営責任や法的責任(株主代表訴訟)を負わされることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:課徴金納付の実例
某家電量販店がオリジネーターとなった不動産流動化スキームに関連し、2008年12月、証券取引等監視委員会は、
「SPCに投資した法人が、実はオリジネーター(家電量販店)の子会社にあたり、要件を満たさない」
との指摘を行い、オリジネーターは、売却会計処理を数年間遡って取消しました。

助言のポイント
1.不動産流動化にあたっては、会計基準についても慎重に検討しよう。金商法違反の有価証券報告書虚偽記載とされて、課徴金を取られることもある。
2.最近は、会計基準の変化で不動産流動化の会計上のメリットも減少している。
3.不動産流動化を実施しても、会計基準が将来どのように変化するか保証はない。想定されているメリットが得られるかよく考えよう。
4.「最先端の経営手法」に惑わされない。オイシイ話には必ず落とし穴があるから注意しよう。
5.目新しいスキームを採用する場合、トラブル例をよく見て、社外の専門家から客観的・保守的な意見もきちんと採取し、慎重に実施しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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