00929_企業法務ケーススタディ(No.0249):不動産流動化スキームの落とし穴その2 税務編

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年8月号(7月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十一の巻(第21回)「不動産流動化スキームの落とし穴 ~その2 税務篇」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社グループ 家電量販店ドッキリカメラ
不動産コンサルタント 土地 文男(どじ ふみお)

相手方:
証券取引等監視委員会

不動産流動化スキームの落とし穴その2 税務編:
当社は、不動産流動化スキームを行ったところ、証券取引等監視委員会に目をつけられ、2億円の課徴金を支払う結果となりました。
証券取引等監視委員会が
「あの取引は不動産の売買ではなく、不動産を担保とした借入だ」
と判断したのであれば、売買を前提として支払った税金は支払う必要がなかった、となるのですが。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:更正の請求
納税義務者は、税額を過大に申告してしまった場合には、税務署長に対して、税額等について更正をすべき旨を請求することができます(国税通則法23条1項1号)。
更正の請求の前提となる
「税額の計算等が法律の規定に従っていなかったか否か」
については、最終的には法令の解釈権を有する裁判所が決定します。
しかしそれは、敗訴率95%(平成21年度)の絶望的な訴訟といわれています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株式公開企業を取り巻く「三重会計」
1つの企業(会計主体)には、複数の会計が存在します。
株式公開企業では、
1 企業の正しい会計上の姿を開示するために正確な損益計算を行って投資家を保護するための企業会計
2 株主への分配可能利益の上限を画することを通じて、債権者を保護するための会社法会計
3 適正かつ公平な課税を目的として、税務当局を保護する税務会計
と、3つの会計、すなわち
「三重会計」
が存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「二重帳簿」はNG、「三重会計」は問題なし!
いくつもの会計がそれぞれ目的を違えて存在する以上、税務会計が、企業会計、会社法会計とまったく同じように表現される必要はありません。
逆に、税務会計には
「適正かつ公平な課税を行う」
という独自の目的が明確に存在する以上、企業会計や会社法会計に依拠せず、この目的に沿って独自の解釈適用をしても何ら問題ない、という理屈が導かれるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:国税当局と証券取引等監視委員会の見解が矛盾した実例
裁判例では、某家電量販店は、資産流動化スキームに基づき、自らが所有する不動産をSPCに一旦売却した際、会計上、売却取引として認識し、計上した売却益に基づき約26億円の法人税を納付しました。
ところが、証券取引等監視委員会から
「実務指針に沿わない会計処理であり、これは不動産を担保として資金を借り入れた金融取引である」
と指摘されたことに伴い、某家電量販店は、当該売却処理を取り消し、有価証券報告書等を訂正しました。
そして、
「不動産売却益はなかったのだから、納付した法人税26億円は返してくれ」
と、所轄税務署に対し更正請求をしました。
ところが、税務署側は
「金融取引とする理由はない」
との判断を下し、某家電量販店の主張を認めませんでした。
しかも、取締役、監査役、元取締役ら9名に対しては、課徴金相当額および過大に納税した額について支払を求める株主代表訴訟まで提起されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:目新しいスキームには要注意
同一の取引について、証券取引等監視委員会と税務署が矛盾した判断が平然となされることが実際に起こっているのです。
会計の目的が
「投資家に対して、適時に適切な情報を提供する」
ことである一方、税務の目的は
「税金を多く徴集すること」
であり、両者が目的を異にしている以上、判断結果が異なったとしても合理性がまったくないとは言い切れません。

助言のポイント
1.税務の目的は税金を多く取ることで、会計の目的は投資家に適切な情報を提供すること。両者の目的はそもそも異なるから、税務当局と証券取引等監視委員会が矛盾する取扱をすることもある。
2.税務署に一度納めた税金を取り戻すのは至難の業だし、裁判所に助けを求めてもアテにならない。
3.不適切な会計処理をすると、(1)証券取引等監視委員会からは課徴金を取られ、(2)株価下落の憂き目にあい、(3)税務署に過大な支払った税金は返ってこず、(4)株主から代表訴訟を食らって沈没、という最悪のシナリオになる可能性があるから注意が必要。
4.未確立の会計スキームを活用する際は、法務、会計、税務の全てについて、専門家と連絡を密にして、アタマを冷やして慎重に対応しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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