00935_企業法務ケーススタディ(No.0255):公益通報と守秘義務

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十七の巻(第27回)「公益通報と守秘義務」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 法務部 悪討 正義(あくつ まさよし)

公益通報と守秘義務:
当社は、従業員から入社時に守秘義務誓約書を提出させています。
それなのに、マスコミに違反食品使用をリークされてしまいました。
リークした従業員は、自宅待機にさせていますが、給料を没収してクビにし損害賠償を請求するつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:宮崎信用金庫懲戒解雇事件
平成9~10年にかけて、宮崎信用金庫(宮崎市)の元労組副委員長2人が、信用金庫幹部らによる不正融資疑惑を追及するため、コンピューターから顧客情報を出力するなど情報収集したり、宮崎県警や国会議員秘書に資料を提出しました。
これにより宮崎信金の不正が明るみになり、当該不正事件解決の大きなきっかけとなりました。
その後、宮崎信金は、内部資料を外部に漏洩したとして2人を懲戒解雇しました。
従業員側は、
「正当な内部告発であり、懲戒解雇は無効だ」
と争い、訴訟事件に発展しました。
一審判決は企業側勝訴(懲戒解雇有効)、二審(福岡高裁)は企業側が逆転敗訴(懲戒解雇無効)しました。
そして、最高裁では、信金側の上告を棄却する決定をし、企業側敗訴(懲戒解雇無効)を確定させました(平成17年7月1日)。
このように、企業内の不正を公表した結果、不当に解雇されるケースなどが相次いだことを受け、 政府は諸外国の例を参考に公益通報者の保護を目的とする制度を策定し、平成18年4月1日には公益通報者保護法を施行するに至りました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:公益通報者保護法
公益通報者保護法は、公益目的での企業内部の非違行為を外部公表した従業員(公益通報者)に対する企業による解雇を無効としています。
公益通報者を企業による報復的な解雇から保護することにより、従業員等が解雇などの不利益を恐れずに企業の内部の不正等を通報することが可能な環境を整備するとともに、全体として、企業の違法・不当な活動を抑止させようとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:解雇の無効・不利益扱いの禁止
企業によっては、従業員に対し
「就業規則や誓約書その他に基づき企業内部の情報に関する守秘義務を課し、守秘義務に違反した場合には、減給や解雇といった懲戒処分を与える」
という仕組を有しているところが多く存在します。
公益通報者保護法は、
「企業による報復」
を予め防止すべく、企業内部の通報窓口に通報を行ったことを理由として不利益な扱いや解雇を行ってはならない(これに反し行った解雇は当然に無効となる)と定めました。
また、不正や被害の発生といった通報対象の事実が実際に発生している場合や、まさに発生しつつある場合で、
1.内部通報(監督官庁への通報を含む)をすると、不利益扱いを受けると信じるに相当の理由がある
2.内部通報(企業のみ)をすると、当該企業によって証拠隠滅などがなされると信じるに相当の理由がある
3.個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある
などの場合には、マスコミや政治家や圧力団体等に駆け込んで事実関係を洗いざらい話したとしても、前記同様、不利益な扱いや解雇を行ってはならないこととしました。

助言のポイント
1.まずは、社内に公益通報窓口を設置しよう。「おざなりの窓口」ではなく、公益通報者保護法に準拠した適正な窓口に。
2.専任の部員を配置して、通報があった場合には、迅速かつ誠実に対応するなど、通報受理後の対応も充実を。
3.下手な解雇をすると、裁判で解雇が無効とされ解雇したはずの従業員が英雄になって職場復帰したり、労働争議に発展したり、大事になる可能性もある。
4.外部に通報された場合であっても、守秘義務違反や就業規則違反を追及する前に、通報を放置していたり、証拠隠滅を図ったりしていいなかったかなど、企業側の落ち度についての事実確認もきちんと行うこと。
5.不祥事は不祥事。誤魔化したりもみ消しを図るのはもってのほか。原因の探求と再発防止策をきちんと講じよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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